2012.02.22(水)桜林 美佐:プロフィール
三菱電機が防衛・宇宙開発関連の契約において防衛省に過大請求をしたという。皆さんは、この事件をどのように受け止めただろうか。
私は日本のいわゆる防衛産業について取材をし、その問題点や課題などについて調べているが、そのきっかけは、素朴な疑問として「なぜ、防衛産業に関わる『不祥事』が途絶えることなく起こるのか」と、考えたことも理由の1つだ。
ここ最近の間でも、三菱電機事案以外に防衛産業を巡る報道(それも「防衛産業は頑張っている」といったものではなく、ネガティブなもの)は続いているが、それに対する企業側の見解、弁明に当たるようなものは見たことがない。
おそらく報じられれば報じられるほど、企業側は殻を閉ざしてしまっているのではないだろうか。
こうなると、防衛産業や自衛隊の装備品についての真実の姿は伝わる術がなく、極めて一方的、一面的な報道ばかりが世に出るといった悪循環を生んでいるように見える。
過大請求につながる「原価計算方式」と「競争入札制度」
まず、「過大請求事案」はなぜ起きるのか。
それは、そもそも防衛省が企業に仕事を発注する際、「原価計算方式」に基づいて企業が算出した金額で契約することに端を発する。
これは、防衛に関わる開発・製造は、一般の製品と違って経費がどれくらいかかるか分からないために取られた方法で、企業が自分たちで物件費と人件費に利益を上乗せするシステムだ。
一見、企業に対して良心的なアイデアであるが、この内容について、かねて企業側から不満の声が出ていた。多くの関係者は「現実を踏まえていない」と口を揃える。
つまり、製造途中でコストの上昇があっても、「上限はカットする」という否応(いやおう)なしのルールがあるために認められない。また、防衛装備品専用の工具や設備でなければ費用回収は認められない(少しでも汎用性があると見なされればダメ)。
さらには、「超過利益返納特約条項」というものがあり、企業努力でコストダウンに成功しても、その分を防衛省に「お返しします」と差し出すのだ。
つまり、「契約よりもコストオーバーしたら余分な経費は企業が持ち、努力してコストダウンしたら、浮いた分は返す」という仕組みである。
この報われない方式ではいくらなんでもマズイだろうということで、導入されたのが「インセンティブ契約」制度だ。
これは、企業が頑張ってコスト削減したならば、削減額の一部を企業に還元するという方針だ。文字通り、企業のインセンティブを高めようという試みであるが、実際には、その審査が厳しく、なかなか企業の利益にはつながらないため、この制度そのものを疑問視する声もあるようだ。
そして、「過大請求」が起きる極めつけの理由は、上記の片務的な契約方法に加え、多くの装備品が競争入札制度となっており、価格競争を強いられるということだ。
防衛産業が置かれている不公平性の現状を単純化して示すと、以上のような構図になる。
企業の「不正行為」を責め立てるだけでいいのか
これら以外にも、企業リスクにもなる在庫管理や企業持ち出し分の諸費用、単年度予算による計画の不透明性(要するに、受注できるのかどうか分からない)、諸手続きの煩雑性、安全に関わるもの以外の旧態依然とした規制などなど・・・問題・課題は枚挙に暇ない。
こうした話をすると、よく「企業はそんな構造の中でなぜ防衛の仕事をするのか」と疑問に思われる方も多いが、その理由の第一は「国防を担っている誇り」であろう。
そんな青臭い言葉では信じられないという向きもあるようなので、あえて現代人に理解しやすい説明をするならば、「防衛省の仕事をしている信頼性」と「利益は低くても安定はしている」からだと言えるだろう。
しかし、こうしたことも、昨今は企業を引き止めておく魅力にはなり得ていない。
もちろん、制度に問題があるからといって、ルール違反が許されるわけではない。
2月4日の産経新聞のインターネット記事「疑惑の濁流 」では、「三菱電機の今回の行為は詐欺罪に当たらないのだろうか」として、元最高検検事の土本武司筑波大名誉教授の「国民感情としては詐欺罪で立件すべきという心情は理解できる」といったコメントを紹介するなど、企業側の事情には言及せず、手厳しく三菱電機を糾弾している。
一方で同記事では、ミサイル防衛システムやレーダー防衛網の構築に三菱電機は欠かせないという防衛省の制服幹部の声も出てくる。本当にそうであるならば、こうした企業が「過大請求」をしなくても済むような環境を整えることが急がれるのではないだろうか、
同様の事案が、1988(昭和63)年以降から今回まで20件に上っている現実を、「企業の不正行為」「詐欺」などと断ずるだけでいいのか。
この他にも最近の防衛産業に関係するニュースは、サイバー攻撃事案、新型偵察機の試作機を巡る防衛省と東芝の対立・・・などが続いている。問題の根幹を見ずに現象だけを捉えれば、防衛産業のイメージは悪くなるばかりだ。
それは国のためになるのかどうか。中国や北朝鮮の動き、現在、わが国が置かれている状況やさらされている危険など様々なことに鑑みれば、責める一方の姿勢は国益を損なうことになりやしないかと、懸念している。