選挙権「18歳」をめぐる考察。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【解答乱麻】ジャーナリスト・細川珠生





 選挙権を18歳以上に引き下げるという現政権の方針は、意外にも若者に評判が悪い。理由を尋ねると、「20歳になった自分でも、まだ政治や世の中のことがわからないのに、18歳なんてまだまだ子供」との答えが返ってくる。日本の子供たちは本当に幼稚だと実感する。選挙権を得てどうしていいのかが分からないというのには、子供たちを一人前の大人にしてあげられない大人の問題も大きい。親や教師をはじめ周囲の大人、教育制度、社会全体の未熟さが、子供が育つ環境を十分に作れていないということではないか。

 義務教育後、3年を経過しても、なお自他ともに“子供”だと認めているようでは、高校の授業料を無償化してまで学ばせる意味があるのだろうかと思ってしまう。高校の卒業時にはどんな人間になっていることを目指しているのか。そのために高校では何を学ばせるのか。そもそも目的や目標が定まっていないのだ。

 もちろん、経済的理由で学習の機会を自ら手放すことをできるだけ減らすために、国が支援を行うこと自体に私は反対ではない。が、「とりあえず高校くらいは卒業」という目的以上に何も目指すものがないのなら、むしろ支援などしない方がいい。義務教育を終えたあとも学ぶというのは、最低限の知識や教養だけでは済まない。少しでも自分自身の人生設計に組み込んだ学習でなければならないはずである。それは体験などを通じた社会との接点を得ることも含む。

そのために必要なことは、義務教育を終える時期に、どんな自己の目標を持っているかが問われてくるのだ。子供は子供なりに、自分の将来像やなりたい職業など、あこがれも含め、描ける子が多いと私は思っている。幼少のころから、何回も「夢」が変わる子もいれば、一途(いちず)に思い続け、憧れ続ける子もいる。

 しかし、夢をかなえ、なりたい職業に就ける子は決して多くない。どこかで諦め、妥協し、不本意な自分の人生を受け入れている人の方が多い。理由はさまざまあると思うが、私は、人は、自分のなりたい職業に就き、その人生を全うできることで幸福感、それ以上に満足感を得られると思っている。夢を実現するというのは、何もスポーツのスター選手やアイドルになるということだけではなく、どんな職業であってもいいのだ。その子が興味があって、なりたくて、向いていると思うことなら、思い切って飛び込めばいい。

 そして周囲の大人たちも、そういう子供の希望や思いを後押ししてあげる本物の愛情が必要である。当たり前のことであるが、いくらやりたいことであっても、苦労はつきものである。社会の厳しさも、夢を実現することの厳しさも、やはり周囲の大人がはっきりと教えなければならない。その子が社会に出るころに、日本はどうなっているのか、世界はどうなっているのか、広く長い視野で、道筋を示す。

選挙権を得て政治に参加する意味や責任も、社会との接点の中で教えていかなければならないだろう。そこで初めて、選挙権を18歳以上に引き下げる意味が出てくるのだ。

 高校受験、大学受験、そして就活のシーズン、その子が、どんな進路が最もよいのかを自ら判断できるかどうかは、それまでの大人の関わり如何(いかん)である。「18歳は大人である」と自覚できるために、社会全体ですべき努力はまだまだたくさんある。

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【プロフィル】細川珠生

 ほそかわ・たまお 前東京都品川区教育委員。ラジオや雑誌などで活躍。父親は政治評論家の故細川隆一郎氏。