【平成志事術】
マーケティングコンサルタント・西川りゅうじん
■目指せ 神話ボーイ&ガール
各地の神社に友達同士やカップルで参拝する、神話好きの「神話ガール」「神話ボーイ」が増えている。
昨今のパワースポット人気によって御利益にあやかろうとお参りするうちに、神社に祭られている祭神に興味を持ち、神話について学ぶようになった若者たちだ。
「神話ガール」「神話ボーイ」は目に見えるほど増加している。伊勢神宮への参拝者数の推移を見ても、近年はほぼ毎年増加しており、平成22年は約860万人を記録。日清戦争が終わった明治28(1895)年の調査統計の開始以来、過去最高を更新した。まるで幕末に流行した「おかげ参り」が約150年ぶりに復活したかのようだ。
それまでで一番多かった年は、昭和48年の859万人で、同年には第60回の「式年遷宮(しきねんせんぐう)」が行われた。遷宮の年以外で記録が更新されたのは初めてのことだ。「式年遷宮」とは、1300年以上の長きにわたって連綿と受け継がれてきた、20年に1度、社殿と調度類を新造して宮を遷す一連の祭りである。平成25年にクライマックスを迎える第62回の遷宮に向けて、神話好きの若者の参拝がさらに増えるに違いない。
折しも今年は、712年に神話の書であり日本最古の歴史書である『古事記』が編纂(へんさん)されてから1300年に当たる。物語に登場する神々は各地の神社で祭神として奉られており、『日本書紀』と並ぶ、「神話ガール」「神話ボーイ」の聖典だ。
『古事記』は、国や地域の成り立ちはもとより、自分自身のことがわかる自分探しの書でもある。なぜなら、「八百万神(やおよろずのかみ)」といわれるようにさまざまな神様がいるので、共感したり憧れを抱く神様や自分の職業の元祖とも言える神様が必ず見つかるからだ。
例えば、「りゅうじんさんのような仕事は日本には昔はなかったでしょう」とよく言われるが、そんなことはない。実は神話の中で語られているのだ。
天岩戸(あまのいわと)の神話はご存じだろう。弟の須佐之男命(すさのおのみこと)の乱暴狼藉(ろうぜき)に、姉の天照大神(あまてらすおおみかみ)がお怒りになって、岩戸にお隠れになる。すると、世界中が暗黒に覆われ、悪霊が騒いであらゆる災いが起こる。この緊急事態を打開するためのイベントを企画プロデュースしたのが思金神(おもいかねのかみ)だ。
まず朝を呼ぶ常世(とこよ)の国の長鳴鳥(ながなきどり)を集めて鳴かせる。そして、鍛冶と玉造の神に、後に「三種の神器」の内の2つとなる鏡と玉を作らせる。これらで飾った美しい玉串を供え、祝詞(のりと)をささげて、大宴会を開催する。芸能の神である天宇受売命(あめのうずめのみこと)が熱狂的なダンスを披露すると、集まった神々は大笑いして歓声を上げる。「私がいないのに、どうして、皆、楽しそうにしているの」と天照が不思議に思って隙間から外をのぞいたところを力の神の天手力男神(あめのたぢからおのみこと)が岩戸を開け、この世に再び光が戻ってくる。
神話は日本人の心に光をもたらすのに違いない。「なでしこジャパン」も、記紀に登場する神武天皇を勝利に導いた八咫烏(やたがらす)のエンブレムを胸に世界一に輝いた。
そして、神話の神々は長生きだ。神社に参って、天皇陛下のご健康とご長寿をお祈りしつつ、私たちも永遠の「神話ガール」「神話ボーイ」を目指そうではないか。
(にしかわ りゅうじん)