人間を育てない松下政経塾、公に殉じる気概なし。
南丘喜八郎氏
マット安川 今回はオピニオン誌「月刊日本」主幹・南丘喜八郎さんをお迎えして、「官僚支配」と揶揄される現政府の問題点やメディアと官僚の関係についてお話しいただきました。なかでも、財務省と某新聞社の関係は興味深く伺いました。
増税キャンペーンに加担するマスコミ、圧し殺される
「言論の自由」

「月刊日本」主幹(写真提供:オフィスヤスカワ)
南丘 2月2日の朝日新聞の1面トップを見てビックリしました。三菱東京UFJ銀行が、日本の国債の急落を想定して危機対策を取っているという内容です。
日本政府の借金総額は約1000兆円あって、このうち国債を発行して投資家から借りているのは約750兆円です。野田(佳彦・首相)さんは消費税をまず8%に引き上げ、その後10%にする考えですが、10%になったとしても財政赤字は続く。そうなると国債は急落する。これはたいへんな事態であるということを、朝日新聞はトップで伝えたわけです。
しかし、日本の国債の9割超は国内で買われています。つまりギリシャなどとは違って国内でほとんど消化している。だから国債急落の心配はないと思うんですけど、なぜこんな記事が1面トップに出てきたのか。
私に言わせると、朝日新聞が、増税をやらないとたいへんなことになるという財務省のキャンペーンに乗ったということです。
いま、どのマスコミも財務省に加担しています。消費税を上げなければ日本はダメになると言い続けており、だから世論調査でも国民の半数以上が増税はやむを得ないのかなということになってきている。
でも本当にそうなのか。財務省は世論工作も行っているわけです。
財務省はありとあらゆる力を持っています。増税反対のキャンペーンを張っていた某新聞は、国税庁が査察に入りました。これは脅しです。国家権力はそれだけ強い。
結局、財務省がマスコミすら支配しているということ、日本には言論の自由はないということです。
外為特会に隠された15兆円で増税の必要なし

橋本(龍太郎)政権が1997年に消費税を3%から5%に引き上げました。ようやく景気が上向きになったと思っていた時に、この増税で景気が一気に悪化し、税収が落ち込んだ。
つまり消費税を2%プラスしたにもかかわらず、税収は減ったんです。今回も増税すれば同じことが確実に起こると思います。
みんなの党の江田憲司(幹事長)さんが昨年9月の衆議院予算委員会で、外国為替資金特別会計(外為特会)について質問しました。この外為特会には約100兆円のカネがあって、そのほとんどがアメリカの国債購入に充てられています。
アメリカの国債にはちゃんと利子がついていて、この特別会計には毎年15兆円がアメリカから入ってきている。財務省はそれを秘密にしていたわけですが、江田さんが初めて明らかにさせたんです。
仮に5%消費税を上げて10%にしても、12.5兆円くらいしか歳入増は見込めません。それならばアメリカから入ってくる15兆円を使えばいいのに、なぜ使わないのか。
こういう事実があれば、マスコミは財務省なり政府を徹底的に攻撃すればいいんですよ。
ほかにもいっぱいあります。驚いたのは、東京都内には特殊法人や政府関係のいろんな機関があるわけですが、こういったところで各省庁のOB約15万人がメシを食っているということです。
皆かなりの高給です。1000万円超えるとか2000万円とか。さらに秘書がついてクルマがつく。こういうことを役所は隠れてというか、堂々とやっているわけです。
松下政経塾で教えるのは選挙テクニック、
人間が育つはずがない
野田総理をはじめ、松原仁(国家公安委員長兼拉致問題担当大臣)さん、政調会長の前原(誠司)さん、幹事長代行の樽床(伸二)さんら、いま民主党の主要ポストに座っているのは、ほとんどが松下政経塾の出身です。
政経塾では何を教えているかというと、「公」ではありません。松下幸之助は「私」の利益を上げることに全力を尽くして、命を懸けてカネ儲けをやった人です。そんな人に本当に人間なんか育てられるはずがない。吉田松陰とは違うんですから。
吉田松陰は1年半か2年くらいしか塾(松下村塾)で教えていませんが、そこで学んだ人の半数は殺されたり獄死したりしました。彼らは「公」のために生きることを教えられ、死ぬことを教えられ、それで見事に新しい日本をつくる仕事に殉じたわけです。
それに対して、松下政経塾で教えているのは選挙に勝つ技術、テクニックだけです。松下政経塾に行ったら立派な政治家になる、政経塾バンザイなんてやっている人たちがたくさんいますが、まったくの間違いです。
東北地方に公共投資を、戦後ものづくりの礎・
石橋湛山に倣え

1945年8月15日の敗戦当時、日本国内でどういう議論が行われていたのか、役人はどういうことを考えていたのかというと、ああこれで日本は終わったと悲観的な意見が国中に蔓延していました。
ところが、いまこそ更生日本の夜明け、日本は前途洋々としていると主張した人がいました。石橋湛山です。
日本人には知恵とモノをつくる力があるとして、限られた予算の中で製造業に投資し、ものづくり日本の基礎を築きました。それを引き継いだのが池田隼人で、所得倍増計画を打ち出しました。
当時、東大教授の大内兵衛や一橋大学の総長もやった中山伊知郎らを含めて、政財界、学者は石橋湛山の考えは間違いだと批判しました。このままでは日本はダメだから税金を上げろ、なるべく予算を使わないようにしろと。
いまの財務省の主張とまったく同じです。ところが数年後に、これらの人はみな石橋湛山に頭を下げたんです。あなたのおっしゃったことは正しかったと。
ですからいまも、日本人は能力があるんだしカネを返す力だってあるんですから、公共投資をやればいいんです。東北地方を改造し生産拠点としてインフラを整備したら、日本はもっともっと豊かになりますよ。