【あめりかノート】ワシントン駐在編集特別委員・古森義久
■北核武装、迫る「真実の時」
外国からの危険を避けるにはまずその相手と話しあえばよい-日本の対外政策の最大前提だといえよう。だがこと北朝鮮の核兵器開発に関しては、この前提はことごとく外れてきた。6カ国協議は結果として北朝鮮がウラン濃縮の核弾頭開発の秘密作業を進める上での隠れミノとなってしまった。そしていまや最大の危機がつい目前に迫ってきたのだ。
北朝鮮核武装の究極とも呼べるこの危機とは北が小型化、軽量化に成功した核弾頭をノドンやムスダンという弾道ミサイルに装備するという事態である。このところ米国でも日本でも、北朝鮮といえば、金正日総書記の死と指導者の交代にすっかり関心を奪われた感じのようだ。安全保障上の最大の新展開がひたひたと接近していることの指摘は少ない。
だがその数少ない警告が米国議会調査局で40年以上も朝鮮半島情勢を追ってきたラリー・ニクシュ氏により一連の調査報告で発せられていることは注視すべきだろう。現在はワシントンの「戦略国際問題研究所(CSIS)」の研究員を務める同氏は、次のように断言するのだ。
「北朝鮮は高濃縮ウランの核弾頭のミサイルへの搭載に全力をあげており、その目的を早ければ今年中、遅くとも2014年末までに達成する見通しが確実となってきた。そうなると北は韓国と日本の全域、さらにはグアムやハワイ、アラスカという米国領土をも核ミサイルで攻撃する能力を保持することになる。この事態はこれまでのいわゆる北朝鮮核開発問題を根底から変え、北朝鮮が公然たる核兵器保有国となって、東アジアの安全保障を激変させる」
もっとも米側ではロバート・ゲーツ前国防長官も「北朝鮮は米国にも届く大陸間弾道核ミサイルを5年以内に配備する意図だ」と述べていた。だがニクシュ氏はその配備がこの1、2年に起きると明言するのだ。そしてその根拠として(1)北朝鮮がパキスタンの核専門家A・Q・カーン氏から得た技術(2)北が米国専門家にみせたウラン濃縮技術(3)北が技術を提供したイランのシャハブ・ミサイルの技術-などの現状を指摘する。
ニクシュ氏はさらに北朝鮮が弾道ミサイルへの核弾頭装着を明示すれば、6カ国協議の目標の「北の非核化」はもう絶対に実現しないだろうとも予測する。そして韓国、日本、米国にとって北朝鮮の軍事能力の重みが根底から変わり、安保政策の基本が再考されるというのだ。
ニクシュ氏が述べるこの悪夢のシナリオへの各国の動きでは、とくに日本の反応の予測が興味深い。
「日本側のショックがおそらく各国のなかでも最大だろう。敵性国家による核攻撃の能力や意図という現実は戦後の日本が想像もしなかった事態となる。大震災の復興になお追われるいまの日本の政権にはそもそも一貫した安保政策がうかがわれず、とくに対北戦略がないようだ」
ニクシュ氏はそのうえで日本には北朝鮮の核ミサイルを抑止するための非核の爆撃機やミサイルという長距離攻撃能力の保持も選択肢になると述べながらも、現状では憲法上の制約などを理由とする反対論の勢いがなお強いだろう、とも指摘する。確かに、北朝鮮の現実の核武装という展望が国政上の課題ともならない現状からは、そのとおりだろう。
すぐそこに迫った北朝鮮核武装の「真実の時」を仮想だけとしてすませないことだけは自明である。