「破壊的改善」望んだ民意。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【古典個展】立命館大教授・加地伸行





橋下徹大阪市長、松井一郎大阪府知事が誕生して約2カ月となる。

 圧勝当選の翌日、某大学教授は「府民が中身を見て支持したとは思えない」と非難のコメント。

 しかし、松井知事約200万票、橋下市長約75万票が浮ついた熱気だけのものであろうか。

 市長選は橋下対前市長の一騎打(いっきうち)であったが、知事選にはほかに候補者が4人いた。その4人の各得票数を見ると、それぞれ約2万9千、2万7千、2万2千、2万1千票とほぼ横並びとなっているのみならず、大阪府下の各市区町村別の得票数もほぼ平均しており、ゼロ票はないのである。

 最小選挙区の千早赤阪(ちはやあかさか)村(楠木正成(くすのき・まさしげ)の拠点として有名)で言えば、28、26、12、8票となっている。因(ちな)みに松井知事は約1500票。

 と言うことは、下位得票者に投票した人も、偏りはなく全体的に一定していることを示している。

 またその某はなんと「中身ではなく『破壊』という言葉のイメージに府民が期待した結果だろう」とまで言う。

 何を言う。庶民こそ破壊ではなくて、建設を求めているのである。

 例えば大阪市の場合、生活保護認定者は18人に1人という異常さである。その認定が甘いため、対象者が大阪府下はもとより他府県からも大阪市に流入してきて、市財政を危うくさせている。これを改善せよと言うのは、庶民の正常な感覚ではないのか。

 また例えば、小学生の全国学力テストの成績において、大阪府はずっと下位に低迷していた。その理由は明らかであるが、今はそれは問わないでおく。

 けれども、子を持つ保護者にしてみれば、こんな不安な話はない。大阪の義務教育の改善を求めるのは、庶民の当然の声ではないのか。

 橋下市長は偽悪的に〈破壊〉と言うが、それが実は〈改善〉であることを大阪府民は百も承知。あえて言えば〈破壊的改善〉であろう。

 事実、市の労組は組合交渉を非公開にせよと、つまりは外部には見えない秘密交渉をしてきたドス黒い既得私利をいまだに臆面もなく橋下市長に要求し、はねつけられている。その件で府の労組はすでに完敗している。こうした〈破壊的改善〉をこれまでだれもできなかったのだ。

 加えて、大阪市職員中、自他ともに優秀と認める幹部連中の資質がよく分かった。

 彼らの大半は橋下落選のための選挙運動をし、橋下市長が誕生すると大阪市はだめになるとまで宣伝した。ところがどうだ。橋下新市長に対して志が異なるとして辞表を叩きつけた者は一人もいない。辞めると豪語していた府教育委員のだれも辞めない。彼らの人間としての道義水準は低い。大阪府民を非難した某教授に、そこまで見通す力は、もちろんない。

 孔子の弟子に閔子騫(びんしけん)というすぐれた人物がいた。この人、ふだんは無口で黙っていることが多かった。しかし、必要なときは、ピタリと適切な意見を述べたらしい。

 そのことを孔子はこのように述べている。「夫(か)の人(閔子騫)は言(ものい)わず。言(い)えば必ず中(あた)る有(あ)り」(『論語』先進篇)と。


(かじ のぶゆき)