最新そして小型軽量化 能力大幅アップ。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120115/plc12011507010001-n1.htm
陸上自衛隊富士駐屯地に日本で初めて新型戦車「10式戦車」が配備され、報道陣に公開された
=10日、富士学校
小回りが利く胴体に、情報通信技術が凝縮された神経系-。日本の最先端技術を結集した「10(ひとまる)式戦車」が陸上自衛隊富士学校(静岡県小山町)に配備された。多様化する現代戦に対応するため、1990年に制式採用された最新の90(きゅうまる)式戦車に比べ、小型軽量化を進めたほか、連絡、連携能力が大幅に強化された。IT武装が施された“鋼鉄の砦”に、国防の主力としての役割が期待されている。
新型戦車に重圧感
10日午前、富士学校で10式戦車の早期戦力化と乗員の安全を祈願する「入魂式」が開催され、その後10式戦車が報道陣の前に公開された。
ごつごつしたキャタピラ、極端に平べったい砲塔から前方へぐいと突き出した砲身…。暗いカーキ色に染められた10式は、途方もない威圧感を放ちながら、整備工場の一角に鎮座していた。戦場でこの戦車と向き合う敵兵は、きっと深い絶望を味わうことになるのではないか。
隣には現在陸自で稼働している90式、74(ななよん)式の戦車も並べられた。
ずんぐりとした74式と鋭角的なラインで構成された90式の違いはすぐに分かるが、90式と10式の違いは素人目にはなかなか分からない。
しかし、戦車部隊の教官に詳しく話を聞くうちに、9年という歳月をかけて開発してきた技術者らの、見た目だけでは推し量れない汗のにおいが感じられた。
ゲリラとの交戦想定
10式戦車は、全国でいまだ主力として活躍する74式戦車(74年制式採用)の後継として、2002年から防衛省と三菱重工業などが開発を進めてきた純国産戦車で一台約10億円。
陸自によると、北海道を舞台にしたソ連軍との野戦を想定して開発された90式と違い、10式は大規模侵攻への対応力も維持しつつ、現代戦の特徴でもある、ゲリラや特殊部隊との市街地での交戦を想定して作られたという。
このため、90式の一部にも後付けで搭載された、指揮官と現場の戦車部隊が敵の位置や味方の位置などを同時共有できる「C4I」と呼ぶ機能を標準装備したほか、新たに戦車同士が共有できる「C4I2」を採用した。
これまでは、指揮官が情報を一括して集め、それぞれに指示する縦方向だけの情報伝達だったが、「市街地では戦車周辺に建物などの遮蔽物が多いことが想定される。敵の位置や武装についての情報を部隊内で共有できないと即座に対処できない」といった事情があり、戦車同士のコミュニケーションが重視された。
数センチ単位の改良
10式の開発は、先行して製造された試作機を用いて雨、風、雪、霧などの条件下で担当者が何度となく乗り回し、使い勝手を検証。数センチ単位の細かい設計変更が幾度となく繰り返された。
この結果、陸自の発表資料によると、10式は90式に比べ、高さこそ同じ2・3メートルだが、全長が約30センチ短い9・485メートル、幅は同16センチ減の3・24メートル、重さ約44トンと約6トンの軽量化に成功した。
素人には「たったそれだけ」と思えるほどの小型軽量化だが、戦場では、数センチの違いや燃費の差が、戦局の明暗を分けかねない。同校の担当者は、「わずかながらでも小型化したことで、敵からの的になりにくくなる」とメリットを強調する。このほか、戦場間の運搬が容易であることや小型化により旋回性能が増し、小回りがきくことなども大きな利点となっている。
脱着可能な車体
基本性能の向上はこれにとどまらず、長時間使用しても車体が熱を帯びるのを防ぎ、赤外線センサーに発見されにくいといった間接的な防御力を高めることにも成功した。また、ボディーは取り外しが可能な「モジュール型」と呼ばれる方式を採用。森林、市街地といった場面に応じて塗装が違う最適なボディーに取り換えることができる。
火力については、90式戦車と同じサイズの120ミリ砲だが、ドイツ製品のライセンス生産である90式と異なり、10式の砲は設計段階から国産で行われている。同校の担当者は「90式戦車を上回る火力が実現されている」と胸を張る。
今年度中に計13両が配備される予定で、平成24年度には16両を予算申請している。関係者が「世界トップクラス」と胸を張る純国産戦車の正式稼働とあって、多様化する戦場に対応する新たな防衛力として期待は日増しに高まっている。
(橋本昌宗)