【主張】広島刑務所脱走 治安確保にタガ締め直せ
「たるんでいる」と叱責されても、これでは抗弁できまい。
広島刑務所から殺人未遂の罪などで服役中の中国人受刑者が脱走した。これにとどまらない。殺人容疑の台湾人留学生が任意同行中に刃物で自殺し、出頭したオウム真理教元幹部を警視庁が門前払いにしたばかりだ。
こうした不祥事の続発は、異様な事態といえる。治安を担うすべての担当者は、タガを締め直さなくてはならない。
広島刑務所は昨年9月から東側の外塀が工事中で、業者により足場が組まれていた。鉄製の防犯線も工事のため、一時的に外されていた。中国人受刑者は「どうぞ」といわんばかりの足場を登り、高さ5メートルの塀から外に飛び降りたとみられる。
さらに刑務所側は、受刑者の不在に気付いてから110番通報までに45分間を要した。通報が早ければ、受刑者の身柄を確保するチャンスは十分にあった。
逃走した受刑者は窃盗団のリーダー的存在で、警察官への発砲や、逮捕後に警察車両を奪い、一時逃走したこともあるという。
保護者同伴で子供の登下校を続ける周辺住民の不安は当然だ。一刻も早く逮捕し、安全を取り戻さなくてはならない。
特別手配中のオウム真理教元幹部、平田信容疑者は大みそか、警視庁本部に出頭したが、応対した機動隊員は「いたずら」と判断し、取り合わなかった。そのまま再び逃走する可能性もあった。
東京都台東区のマンションで台湾人女子留学生2人が殺された事件で公開手配されていた台湾人留学生は、名古屋市内で警視庁の捜査員に発見された。
捜査員はその場で逮捕せず、任意同行を求めて愛知県警の警察署に車で移動したが、到着直後の車内で隠し持っていた刃物でのどを突き、自殺した。所持品検査で、どうして刃物を発見できなかったのか。刃物は、警察官や一般市民に向けられる恐れもあった。
これらの不祥事を受け、警視庁の高橋清孝副総監は「組織全体の問題ととらえ、緊張感をもってほしい」と訓示した。
広島刑務所の山崎秀幸総務部長は「管理体制の甘さもあった。2次犯罪が発生しないことを祈るばかりだ」と謝罪した。同様の訓示や謝罪が繰り返されぬよう、厳しい姿勢で臨んでほしい。