【主張】集団的自衛権 同盟強化せぬと国を守れない。
2012年の東アジアは、昨年に輪をかけて不透明で不安定な年となりそうだ。金正日総書記死亡を受けた北朝鮮の新年共同社説は「先軍政治」の継続を掲げた。中台関係も緊張をはらんだまま14日に台湾総統選を迎える。
中でも朝鮮半島情勢は北の核・ミサイル開発で一層悪化し、金正恩体制の新たな暴発に備える必要がある。中国の軍拡と強引な海洋進出も進み、日本の安全保障環境はかつてない危険にさらされている現実を認識しておきたい。
一方、これに立ち向かう日米同盟の現状は、民主党政権下で空洞化が進み、同盟深化には程遠い。流れを逆転させ、日米安保体制を飛躍的に強化しなければ国家の安全と平和は守れない。
≪自らリスク担う覚悟を≫
そのためには、日本も自らリスクを負う覚悟が必要だ。具体的には積年の課題の集団的自衛権の行使を可能にすることである。
産経新聞社は昨年9月、集団的自衛権行使を軸に日本が米国を守り、対等な同盟を築く日米安保条約再改定案を発表した。不透明な年だからこそ、現状に甘えず、抜本的に見直すことで「新たな責任を担う元年」としたい。
集団的自衛権の行使へ道を開く論議が皆無だったわけではない。最近の政治で少なくとも機会が3度あった。だが、その都度、「憲法上、行使できない」とする現行解釈に安住し、決断を先送りすることで、結果的に同盟の実効性がむしばまれてきたのが実情だ。
第1は北の金日成主席が死去した1994年、羽田孜政権の外相と防衛庁長官が朝鮮半島核危機に直面し、「政府解釈で日米同盟が機能するのか」と提起した。
第2は2001年4月、小泉純一郎首相が「米艦船が攻撃されて(自衛隊が)何もしないでいいのか」と同盟の実効性を高めるために集団的自衛権の行使容認を示唆した。連立与党への配慮などで小泉氏はそれ以上踏み込まなかったが、「さまざまな角度から研究していい」と、「研究」を初めて明記した政府答弁をまとめた。
第3は、これを受けて安倍晋三政権が設けた首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二元駐米大使)が08年6月、「従来の解釈では新たな安全保障の重要課題に対処できない」と明記した報告を公表したことだ。
同懇談会が具体的に、日本が(1)日米共同行動中に攻撃された米軍艦船の防護と反撃(2)米国を狙った弾道ミサイルの迎撃(3)国際平和活動を共にする友軍への攻撃に対する反撃(4)国際平和活動に参加する他国への後方支援-を可能にするために、従来の政府解釈を改めるよう提起したのは重要だ。
弾道ミサイル迎撃は当時のシーファー駐日米大使らが「同盟国日本の責務」と訴え、また米艦船の防護や国際平和活動時の対処も、米知日派の「アーミテージ報告」などで繰り返し求められてきた。国連憲章に照らしても、国際社会では当然かつ「普通の行動」といわざるを得ない。
≪封印を解く勇気示せ≫
懇談会報告が福田康夫政権下で実質的に封印されたのは極めて残念だが、提起された解答は今も有効といえる。「同盟重視」を掲げる野田佳彦首相は速やかに封印を解き、米軍普天間飛行場移設問題の迷走などで空洞化しつつある同盟の実効性を抜本的に高めるための決断を下すべきだ。
ただでさえ、軍事・経済両面で制約を抱える米国の相対的な力の低下は否めない。日本が北の核・ミサイル、中国の海洋進出、ロシアの威圧的外交などに対処するには、もはや「米国頼り」ではすまない深刻な現実もある。
それでも、オバマ米政権は台頭する中国に対抗するため、太平洋からインド洋に至る海洋安全保障を軸とする本格的な「アジア太平洋シフト」に乗り出した。
日本が自らを守る意思と能力を高めた上で同盟を強化し、豪州やインドなどと連携する態勢を固めることが今ほど必要な年はない。その第一歩は、安保条約再改定と集団的自衛権の行使を中心とする安保体制の見直しだ。
日本の安全を委ねる米国の「核の傘」を強化するための非核三原則の見直しも急がれる。武器輸出三原則の見直しに踏み切った首相は、長期的な日本の安全と同盟強化の戦略に立って、もう一歩も二歩も大胆に踏み出してほしい。