緊急時に滑走路転用できない日本の高速道路。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






東日本大震災で明らかになった様々な日本の欠陥。


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2011.12.20(火)森 清勇:プロフィール




日本大震災が起きた直後から、被災者への支援物資配分と高速道路の活用に着目してきた。大震災(3.11)から8日たった時点で、某企業が準備したカップ麺100万食も半分しか配分されず、粉ミルクや下着なども相当数準備されたが、発送要請もなく急場の役に立たなかったという。

 寸断された道路は復旧してもガソリンと輸送手段の不足という体たらく。高速道路も早いところでは翌日に応急復旧したが1車線通行は数日続き、一般道へのアクセスが弱く、救援物資などの搬送に支障をきたした。

 サービスエリアやパーキングエリアは道の駅や防災拠点として活用されたところもあるが、全体に政治主導が空回りし無残な姿をさらけ出した。

官庁のセクショナリズム

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台湾では高速道路上で戦闘機の発着訓練が行われている(写真は高速道路から発進するF16)〔AFPBB News

 


 高速道路の建設計画が日本全国に張り巡らされていた1970年代中期、陸上幕僚監部に勤務していて、高速道路建設については非常時に滑走路などとして活用できる視点で建設すべきではないかという意見を持っていた。

 担当正面ではなかったが、留学時の授業並びに国外軍事技術情報および装備研究に携わっていた関係で、こうした考えを強く持つようになっていた。

 日本では特異な考えであったろうが、真剣に国土防衛を考え、高速道路についての諸外国の状況を概観するならば、決して突飛な考えでも特異な意見でもなかった。

 米欧や韓国等、有事対応を真剣に考えている国においては、当然視されている考えである。他方、侵入国の軍隊が高速道路を利用することを見越して、途中で障害化し、逆に行動を阻害することも当然視されている。

 関係する部署に意見を述べたりしたが、防衛庁(現防衛省)でもあえて取り上げようとする者はなくセクショナリズムがみられた。

 それならばと、ある筋を通して建設省(現国土交通省)に問い合わせてもらったが、高速道路を建設すること自体に意義を見つける時代で、道路の他への活用など余裕がなかった。

 こうして、全国に張り巡らされた高速道路網であるが、非常時に滑走路としても使用できるようになっているところは寡聞にして知らない。

 今次大震災に際して、高速道路の利用がほとんど報じられなかった背景には、存在したが思ったほどの役に立たなかったと見る以外にないであろう。全国に張り巡らされたせっかくの公共財が、官庁のセクショナリズムで、非常時に役立たなかったのである。

英知を集めたと称される復興計画でも、こうした視点が忘れられているようである。国交省は先の例示の通りであったし、財務省は国防など理解しないまま、とにかくどんなに無茶であろうが、予算を削減すればいいという考え方である。

 こうして、高射特科は1個群で機能するのが0.5個群導入や毎年継続して行うべき射撃訓練が隔年に行われるなど、おかしな査定を平然と行ってきた。

参考になる米軍の基地建設

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アフガニスタンでパトロールする米軍〔AFPBB News

 


 米国の軍事学においては恒久的な基地建設の科目があり、授業が行われている。

 自衛隊は専守防衛を掲げている関係もあり、科目自体がなく、せいぜい野外における野営地設営くらいである。自衛隊が関わった基地建設は、イラク復興人道支援隊が建設したサマワ基地くらいであろう。

 米軍は世界のあちこちに部隊を展開する関係もあって、部隊の移動(駐屯)に先駆けて基地建設が不可欠である。そうした場合、飛行場適地がまず選定され、そこに鉄道や道路が敷設され、次いで部隊の活動に不可欠な兵站施設の配置をベースに基地建設が始まる。

 余談であるが、そうした流れの中で将校クラブや兵員宿舎、業務関連施設やレクリエーション施設としてのゴルフ場や野球場、テニスコート、プールなど、さらには家族の生活物資供給のためのコミッサリー(スーパーマーケット)などが考慮され、間隙に将校宿舎や下士官宿舎などが点在することになる。

 とにもかくにも飛行場、なかんずく滑走路の整備が部隊活動の原点であるという認識に立っている。従って、一般のハイウエイ建設に当っては、要所要所が有事においては滑走路として使用できるように工夫されている。

 こうした意識を米国留学時の教育訓練で教わっていたので前述のような視点が持てたのである。

 有事に活躍してくれる施設や兵器・装備でなければ、こと自衛隊が装備するものとしては無用の長物である。

 運用を次等に考えた典型は90式戦車であったかもしれない。発想の原点は米独の戦車に勝るとも劣らない世界一の性能の戦車を開発することであり、ペーパー仕様の代物となった。

 その結果、運用地域は限定され、移動では分解搬送が必要となり、現地で組み立ててから使用に供するという手間暇をかけることになった。

 移動即戦闘加入は不可能で、平和時の置き土産的存在となった。こうした教訓が、2010年に正式化された10式戦車では生かされている。

今回の大震災に徴して言うならば、福島第一原子力発電所建屋内の放射能対処では90式が優れていたが、重さの関係などから74式戦車の持ち込みとなった。

 同様に無人偵察機システム(FFRS)も宝の持ち腐れに終わった。せっかく開発しておきながら、低い信頼性や展開用地の困難性などから運用できなかったからである。

有事に効果的でない装備

高村外相がスーダンPKO参加に意欲示す、英紙インタビューで

東ティモールでのPKO活動に参加した自衛隊員(2002年)〔AFPBB News

 


 カンボジアにPKO(平和維持活動)部隊を派遣した時には、兵站で関わりを持った。カンボジアの場合は、道路建設が主たる任務であった関係で、既存の装備品で十分に任務が果たせた。

 しかし、野外に積載された補給品を盗んでも自衛隊の反撃がないことを知った住民の行動は、大胆さを増していった。

 2次隊では被害が看過できないほどに拡大し、また相手の行動も一段と大胆になり、もはや鉄条網を張り巡らすだけでは対処できなくなってきた。

 そこで、橋梁修復の名目で厚めの鉄板が多数調達され、相手の襲撃などを避けるための防護壁の構築に使用された。

 イラクに派遣された自衛隊の装備は、砂漠で使用すること、また情勢によっては武器使用が必要になることも想定し、従来開発されていた車両の防弾対策や小火器などの照準方法などにかなりの改修が施された。

 有事の運用に供さない施設や兵器・装備は百害あって一利なしであるが、実際はコストの低減要求などから、また専守防衛ということで実戦場裏での運用もほとんどなかったことから、実戦運用の視点が蔑ろにされてきた面がある。

 些少の開発予算に加え、少ない試作品、試験場や試験期間、試験要員の不足などが影響している。

 戦後の65年間、戦争していないのは素晴らしいことであるが、兵器・装備の面からは有事に真に役立つものかどうかの判定が下されないままにきているとも言える。武器輸出三原則が緩和された場合、最も気をもむのは運用性と信頼性が問われる企業であろう。

 高速道路の運用についても同様である。ドイツに発祥の起源を持つアウトバーンは軍隊の移動を迅速にする観点から建設された。

従って、普段は一般に開放されても、情勢緊迫時や有事ともなれば、躊躇なく軍隊運用の専用道路として、あるいは滑走路として使用する前提で建設されており、可能な範囲で高架道路は避けて平地に建設されている。

 しかるに、日本では軍事的視点は完全に欠落し、ほとんどが高架や土盛り建設であり、また、上り車線と下り車線が離れていたり、段差があったりして、とても滑走路などには供し得ない設計になっている。

 「高速道路のあり方検討有識者委員会」による緊急提言(平成23年7月14日)を見ても、非常時に真に役立つ提言にはなっていない。

教訓を生かす復興プランか

仙台空港が再開、震災後初の民間機が到着

米軍機が撮影した震災2日後の仙台空港〔AFPBB News

 


 今次の大震災では民間の仙台空港や自衛隊の松島基地が津波による浸水で当初使用不能になった。米軍が強襲着陸して仙台空港の早期修復を図ったことは記憶に新しい。

 物資の輸送・集積・配分などことごとく自衛隊に依存しなくてはならない状況に至ったが、被災県の道路や空港は使えず、やむなく山形空港や米軍の三沢基地、あるいは自衛隊の駐屯地・基地を使用せざるを得ない状況に立ち至った。

 高速道路が滑走路やヘリポートとして利用できるようになっていたならば、発災直後の被災者救援などに大いに役立ったのではないだろうか。

 異常とも思われる寒波などが無情に襲いかかり、孤立無援の報道も多く聞かれた。また、せっかく救出されながらも衣料や暖房器具などの不足、さらに典型的なのは医師団が急派されながら待機させられるなどから命を落とした悲惨な状況も散見された。

 政府や民間団体による防災施策も次々に打ち出され、高所移住や堤防の強化策などはあるが、高速道路の利用法についてはあまり聞こえてこない。東日本大震災復興構想会議による報告書でも、高速道路の活用については言及していない。

 東海から関東、東北一円は今後も大型地震の襲来が予測されている。今回の震災の復興は早急になされなければならないが、教訓を十分に汲み上げた復興プランが不可欠である。

 その第1は、道路の寸断による救援物資等の前送が不可であったことである。高速自動車道の要所要所を滑走路やヘリポートとして運用できるように改修することである。そうすることにより、迅速、適切かつ効果的に被災民を救助救援できるようになる。

 第2は、大震災に遭遇しておりながら、多目的情報収集衛星の写真提供などは十分に行われなかったことである。

高価な金を投じで運用されている情報収集衛星である。1000年に1度の大震災というのに、せっかくの情報が、軍事利用のための秘密か何かの故を以って活用されないようでは宝の持ち腐れである。

 衛星の性能などが明らかになるからという理由らしいが、何も性能諸元をあからさまに公表する必要はなく、情報が必要な所には別の形に加工して、確かな情報として利用できるようにすべきではなかったかという疑問がある。

事務官・技官も自衛隊車両操縦が不可欠

明治の粉ミルクからセシウム、希望者に無償交換

福島第一原子力発電所3号機〔AFPBB News

 


 もう1つ、視点は違うが防衛省事務官・技官の自衛隊車両の操縦問題である。

 3.11では内局の事務官が首相官邸や東電本社、被災各県に派遣され、調整業務などで活躍したが、被災現場では自衛隊の消防関係者が原子炉冷却の放水に駆り出され、普段訓練したこともなかったことから、いささか論議になった。

 内局の事務官や技術研究本部の技官などはもちろんのこと、部隊や補給処などの事務官・技官も自衛官ではないので野外訓練などは課されていない。そのために、野外行動を基本とする自衛隊車両の運転は許可されていない。

 有事には状況によって必要ではないかと現役時代(平成5年)に問題提起したことがあるが、依然改善されていない。いよいよ発想の転換が求められているのではないだろうか。

 自衛隊の補給処には自衛官より多くの事務官・技官がいるところが多い。

 そこでは自衛隊関係建屋の維持補修や隊員の衣食住に関わる物品、さらには戦闘に必要な兵器・装備の補給・整備などを行うところであり、民間の整備工場やスーパーマーケットにも似て、いわゆる後方部隊に属する。

 戦闘訓練などとはおよそ関係ないから、自衛隊車両の操縦の必要性はないということになっている。

 しかし、例えば北方有事で旭川正面が急を要する事態になった場合、北海道補給処(千歳近傍)からの支援では遠すぎる。そこで補給処所属のほとんどの自衛官は旭川周辺に派遣され、前方補給点を開設して第一線で戦う部隊を密接支援する態勢を取る。

 こうなると、本拠地の補給処に残る隊員は事務官・技官がほとんどとなる。彼らが、物品の受け入れ・発送など、自衛官がどんどん削減されている現状においては前線までの輸送さえ必要になるかもしれない。どうしても車両の操縦をできなければ仕事をさばくことはできない。

これまでの教育訓練体系では事務官・技官の操縦訓練などの時間は考慮されていなかった。しかし今次の大震災でも部隊によっては多くの自衛官が出動し、残留部隊に占める事務官・技官の比率が大きくなったところもあったに違いない。

 野外の戦闘訓練にこそ、事務官・技官は参加しないが、補給品などを搬送するための車両操縦はできる必要性があるのではないだろうか。

 従来の教育訓練体系でもできなかったものが、任務の拡大と反比例する隊員の削減で、ますます困難は増大している。

 事務官・技官どころか、自衛官の訓練すら従来から大きく低下せざるを得ない状況に立ち至っていると仄聞する。事務官・技官の活用を再考する必要があるのではないか。

兵士・装備品の不足が常態

 災害派遣された隊員個々人は宣誓にあるように「危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め」たが、その裏側で、隊員、なかんずく兵士の著しい不足による平均年齢の上昇、任務の過重による訓練練度の低下、装備、特にCBR環境下での装甲車の不足、さらには実戦を想定しない装備調達、組織や人的配備の問題など深刻な弱点をさらした。

 先進国首脳会議に参加する各国の兵員1人が支える国民は平均400~500人であるが、日本は900人に及んでいる。まさしく2倍である。それだけ隊員に過重な負担がかかっているということになる。

 こうした結果は訓練練度の低下となり防衛力の低下に直結する。兵器装備も編成定数を下回る状況に立ち至っているが、隊員の不足と練度の低下は戦力の発揮を阻害する根源である。

 自衛隊は、もともとやせ我慢に生きる存在である。訓練自体がどんなに厳しい状況だろうが、備品が足りなかろうが耐え忍ぶという意識で貫かれている。

 そうした姿勢は普段の業務でも習い性となり、業務上の必要性から生ずる衣食住に関わる物品に至るまで官給を当てにせずに自給自足することが多い。

 小は鉛筆やノート、簡単な訓練用品から大はコンピューターに至るまで、苦もなく官給に頼らず自己資金で備えてしまう習性がある。

 『正論』(23.10)の「なぜ最新鋭無人偵察機は投入されなかったのか」で清谷信一氏が列挙するように、道路地図、懐中電灯、電池、通信機(携帯)など、本来、自衛隊予算で調達すべき物品でありながら、予算が十分でないために普段は自己調達して済ましている。

 こうしたことが、有事に備えた部隊としての調達やストックなどに悪影響を及ぼすのである。燃料のストックや周波数の割り当てなどは、有事想定で妥協を許さずに要求すべきであろう。

ホーク部隊などは有事対処の任務部隊というカテゴリーで、航空自衛隊のスクランブル同様、常時100%の稼働が義務付けられている部隊である。

 レーダー兵器の心臓である発振器(クライストロンやマグネトロン)が故障した場合、○○時間以内に修復が義務付けられている。しかし、高価であり、米国からの購入であるため必要定数が充足されているとは限らず、所定時間内の復旧は至難の業である。

 米国から見ると、日本よりも韓国の優先順位が高いことも多く、日本が先に調達要求している部品でも状況次第では韓国に供給されることも多く、日本への補給は大幅に遅れたりする。

 また、国内に部品のストックがある状況においても、遠方に所在する場合は輸送手段などの関係でシビアに対処できない局面も多発する。大震災で多くの欠陥が見つかった。ピンチをチャンスにする機会ととらえるべきであろう。

おわりに

 国家公務員制度改革に取り組んだ古賀茂明氏によると、国益を忘れ省益しか考えない国家公務員が多いそうである。

 これは、省益に資する提言は歓迎されるが、国益のために省益を犠牲にする提言は冷遇されるため、入省当時の高い志操は消え失せ、幹部には省益重視の者しか残らないという構造的な問題に原因があるという。

 国益軽視のことなかれ主義が高速道路建設においても見られ、大震災の被害を拡大し被災民の救援を遅らせ、復旧・復興を困難にしている。民主党は政治主導を理解していなかったが、真の政治主導による、国家の体力増強が不可欠になっている。

 3.11の復興を担当する大臣は3カ月半後に任命され、復興庁(呼称未定)は、9カ月たった12月11日の段階でもいまだ発足しておらず、来年3月11までに設置する由。

 88年前の関東大震災(大正12年9月1日)に際しては、翌日発足した内閣で帝都復興院総裁に任命された後藤新平が、その夜には構想を固め1カ月も経たない27日に復興院を発足させている。

 16年前の阪神・淡路大震災でも、3日後には担当相が任命され、4カ月後に成立した第1次補正予算で復旧・復興に必要な予算のめどがついている。

 政治家の力量低下が歴然である。口先だけの政治主導は有害無益である。