財務省からアウトソーシングと人員リストラのプレッシャー。
2011.12.14(水)桜林 美佐:プロフィール
12月は「戦いの月」だ。開戦記念日や赤穂浪士の討ち入りがあるからではない。12月は、予算を巡って熾烈な「戦い」が繰り広げられているのだ。防衛省でも夜遅くまで担当者が作業にあたり、財務省との調整が行われている。
そもそも自衛隊が対峙すべきは、わが国を脅かす敵である。予算獲得のために優秀な人材を充てて疲労困憊させることは国益に適うとは思えないが、この構図は相変わらずのようだ。
震災の教訓はどこへ行ったのか
今、私がとても残念に思っていることがある。いろいろなところで自衛隊の組織力について書いたり、話をしてきたと自分では思っていたが、実は世の中にあまり伝わっていなかったということだ。
未曽有の災害派遣となった東日本大震災で、自衛隊が大きな成果を残すことができた要因には、これまで「辛抱強く」培ってきた自衛隊の自己完結能力があった。
その能力が、被災地での給食支援や駐屯地への被災者受け入れなども可能にしたのである。自衛隊を構成する「人の力」がいかに大事か分かった・・・、はずであった。
ところが、政府の防衛費に対する認識は相変わらず厳しいものがある。結果的に震災の教訓も、これまでの流れに歯止めをかけることにはならなかったのだ。
例えば、陸上自衛隊の糧食はこれまで隊員が作っていたが、アウトソーシング化が進められ、給食の能力については野外訓練で担保する方向性だった。
しかし震災が発生してみると、委託している業者は機能不全に陥り、駐屯地などに来ることすらできないという状況となってしまったのだ。
こうしたことから、何らかの見直しがなされてしかるべきと思ったが、早くもこの教訓を忘れ、いや、震災時の涙ぐましい様子も全く意に介されなかった。
「年寄りは役に立たない」という短絡的な声
人員の話をする際によく指摘されるのが、いわゆる「逆ピラミッド型」となっている陸自の年齢構成だ。相対的に給料の高い「曹」クラス以上が多くなっていて、「陸士」などの若い隊員の入る余地が狭められているのだ。
これに対し、「年寄りがたくさんいても役に立たない」などという厳しい指摘や、「若い隊員を増やして精強化すべし」といった論も聞かれる。だが、これはいささか単純かつ短絡的な見方ではないだろうか。
確かに、防衛費の約4割を人件費・糧食費が占めるという点からすれば、この逆ピラミッド型になってしまっている影響は大きい。経済情勢などが読み切れなかった陸自の落ち度と言われてもやむを得ないかもしれない。
しかし、この構成が「精強さに欠く」かと言われれば、決してそうは決めつけられない。だいたい「年寄り」と言っても、せいぜい50代そこそこであり、世間一般ではまだまだ現役世代だ。若い隊員の方が気力・体力ともに優れているとは一概には言えない。
実際、今回の災害派遣においては、遺体の収容などでショックを受ける若い隊員の心を支え、自ら進んで作業にあたったのはベテラン隊員たちだった。陸海空問わず、彼らが果たした役割は大きく、必要とされている人たちなのだ。
最善策はベテラン自衛官の受け皿会社の設立だが
それでも彼らの早期退職を望むのであれば、何かしら次なる道を用意する必要がある。
最善策は、受け皿会社を設立し、現在、アウトソーシング化を進めている自衛隊の様々な業務を請け負ってもらうことではないかと思う。
もちろん、現実にはそう簡単ではない。
業者の選定は競争入札になっており、どこかを特別扱いすることはできない。また、特殊なノウハウを有するなど条件を厳しくすればよい、とも言われるが、その場合「競争を阻んでいる」などと言われかねず、これもなかなか難しい。
そもそもアウトソーシングは、情報保全などに十分に注意しなければならないが、個人情報の保護が厳しく問われるこのご時勢、入札する企業の社員やその家族、さらに外国人の関与などをどこまで調べることができるだろうか。その点、身元が明らかなOBであればそういった心配はないはずだ。
ただ、アウトソーシングには、自衛隊の自己完結能力を削ぐという、組織の根本を左右する大きな問題があることを忘れてはならない。傾倒しすぎれば、自衛隊そのものの性質自体が変わってしまうのだ。
それに、この費用は防衛予算の中の一般物件費から捻出されており、結局は物を買ったり、活動する予算を圧迫するという問題もある。
基盤維持、防衛産業に理解のない自衛隊員も
また、財務省からは、後方任用制度、いわゆる「準自衛官」の導入が提案されている。
これは、自衛官でなくてもできる職種については、事務官・技官に準じる立場とするもので、人件費の抑制が目的だ。他省庁がここまで言うのは、もはや僭越と言うしかないが、財務省も必死なのだ。
国防には、「どれだけあれば足りるのか」という問いに対する答えがない。そのため、削減は際限なく行われる危険性がある。
装備に関しても同じことが言える。当面の防衛力を整備するための観点と、基盤維持の観点は別次元であることがあまり理解されていない。
実は、現役の自衛官でもこれらを混同しているケースが少なくない。残念ながら、OBの方の中にも基盤維持という言葉に理解がなく、防衛産業に対して「上から目線」の発言をする人もいるのだ。
はたから見ると、財務省は防衛省・自衛隊の組織に対して口を出し、自衛隊は防衛産業を見下ろしている構図が分かる。
今はまだ、そんな構造で成り立っているが、そのうちに、いじめたくても相手はもう息絶えている・・・なんて状況になるのだろう。そうなってしまってからではもう手遅れである。