「夜郎自大」という言葉がある。漢の時代、中国西南地方に「夜郎」という民族がいた。彼らは「漢」の国の巨大さを知らず、その使者に対し自らとどちらが大きいかを問うたという話による。転じて自分の力量を知らずにいばることを例えるのに用いられる。
▼現代では北朝鮮を皮肉って「夜郎自大国家」ということもある。国内では食料不足など深刻なのに、対外的には米国や中国と肩を並べたがっているかのように見えるからだ。もっともこの国の場合、自らを鼓舞するためあえて「夜郎」ぶっているという気もする。
▼そんな「夜郎自大」演出の先頭に立っていたようなのが、朝鮮中央テレビのリ・チュンヒさんだ。北朝鮮発の重要な報道を伝えてきた例の看板アナウンサーである。日本のテレビニュースにもしばしば登場、そのふくよかな姿はおなじみだった。
▼金正日総書記の動静を伝えるときは威厳に満ちた口調で語る。米国や日本を非難するときには太鼓をたたくような早口で威圧的になる。報道そのものは苦笑するしかない内容が大半であった。だが国の威信を一身に背負ったかのようなしゃべりに圧倒される日本人もいた。
▼その「功績」で「人民放送員」「労働英雄」の称号を得ていたという。つまり国の重要人物だったのだが、そのリさんがもう50日以上もテレビに登場していない。ラヂオプレスの報道によれば、今は中年の男性や若い女性が重要ニュースを担当しているそうだ。
▼68歳というから、単なる「定年退職」なのかもしれない。だが秘密がお好きな国だけに、特別な事情があったのでは、といういらぬ疑念も抱かせる。それとも「夜郎自大」もそろそろ幕引きということだろうか。