【40×40】河添恵子
一川保夫防衛相が宮中晩餐(ばんさん)会を欠席し、「(同僚議員の)パーティーの方が大事」とホザいた事件。そもそも、一川防衛相にはブータン王国のワンチュク国王4世(現国王のご尊父)の記憶がないらしい。1989年2月、昭和天皇の大喪の礼に参列するため、民族衣装のゴの礼服姿で来日した当時33歳の若き国王は、「ブータンも国葬にした。国民は昭和天皇の死を悼み、喪に服している。私は日本国天皇への弔意を示しに来たのであり、援助を求めに来たのではない」など、凛(りん)としたお姿と素晴らしい英語力でインタビューに答えている。
当時の日本はバブル絶頂期、世界各国の参列者がオネダリを兼ねた来日だった中で、日中関係にも徐々に「?」を感じていた私には衝撃的だった。だから十数年前、「アジアの神様」をテーマに執筆する機会を得た際、迷わずワンチュク国王4世とブータン王国についてまとめさせてもらった。ゆるやかな鎖国と国際性の絶妙なバランス、GNH(国民総幸福量)など、日本が追求すべき価値観を包含する国ではないかと恋い焦がれた。
念願叶(かな)って昨年8月、ブータンへ。最初の訪問先は農業の礎を築いた西岡京治氏(故人)の弟子の一人、ジャンベさんのお宅。農業局の役人だったがブータン初の種苗会社を起こし、日本のDNAを受け継いでくださっている第一人者だ。また、小国ブータンの国土が中国に18%侵食され、国境線の画定交渉を続けている事実を当コラムや拙書に記したが、立憲君主制となり民主化が進むブータンにおいて、王家は外交そして国防のエキスパートなのだ。
で、一川防衛相は農学部出身の元農林官僚、どじょう内閣では「安全保障のド素人」なのにナゼか国防を担う身。これを機に議員バッジをはずし、ブータンへ自費で行き、ご専門の農業で貢献し、精神修行をしながら愛国の意味を悟り、国防のイロハから学ぶ道をお勧めする。無知で愚かな“税金ドロボー”の仕分けこそが先決だ。
(ノンフィクション作家)