北朝鮮秘密指令の全容。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【追跡~ソウル発】

超大型スパイ事件 捜査、現在進行中




韓国で今年夏、北朝鮮によるスパイ組織「旺載山(ワンジェサン)」が摘発された。この事件は、工作機関の旧朝鮮労働党「対外連絡部」(現・内閣傘下225局)が直接指揮し、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の現職副議長が関与していたことが判明、日本でも強い関心を呼んだ。韓国当局の捜査で判明した北朝鮮の指令には爆破撹乱(かくらん)工作を含め「韓国をまるごと乗っ取るためのあらゆる方策」(韓国検察幹部)が含まれていた。産経新聞が入手した検察資料から浮き彫りになった北朝鮮の工作の実態を報告する。

                                (ソウル 加藤達也)


10年ぶりの超大型組織スパイ事件


 ソウル中央地検公安1部が作成した「北朝鮮『225局』連携 地下党『旺載山』スパイ事件 中間捜査結果」に記載の認定事実によると、「北朝鮮225局は工作員を韓国に潜入させ、韓国の政界・軍・社会団体などの各層人士を包摂(抱き込み)工作し、朝鮮労働党の在韓地下党を結成。共産革命が可能と判断した時期にそれらの地下組織を媒介として韓国の体制転覆を目標に活動」している工作機関だ。

 地検と情報機関の国家情報院は韓国内の主体思想派としてマークしていた在韓総責任者、金徳龍被告(48)が1993年8月、極秘訪朝の上、北朝鮮の故金日成主席と面接して直接“教示”を受け、韓国内でスパイ組織旺載山を構築して赤化統一のために活動中であることを把握した。

 検察は7月、旺載山構成員など10人の関係先に対する家宅捜索に着手。北朝鮮から受信した指令文書や情報報告文書など証拠品1673点を押収した。

 検察が金被告以外に旺載山の「核心指導部」とみているのは、「仁川地域総責任者」の男(46)と、「ソウル地域総責任者」の男(48)、「連絡責任者」の男(43)、「宣伝責任者」の男(46)の4人。

 いずれも韓国で職業を持って暮らす一方で北朝鮮のために働き、宣伝責任者以外の4人は全員がスパイの功績で北朝鮮から勲章も贈られていた。


朝鮮総連副議長は「日本責任者」


 検察の「中間捜査結果」では、日本を舞台とした工作も明らかにされている。「225局の日本責任者」で、日本での活動のキーパーソンと指摘されているのが朝鮮総連のペ・ジング副議長だ。

 捜査結果によると、ペ副議長は2005年10月と09年7月、10年11月の計3回にわたり訪日した金被告と都内で接触。活動方針について話し合い、「金正日国防委員長が指示した地下党(旺載山)の組織指導方針を聞いた」(起訴状)とされる。金総書記の工作指令が日本を経由して韓国の工作員に伝達されていたというのだ。

 朝鮮総連と北朝鮮工作機関の関連でさらに注目されるのが、カネの流れだ。

 旺載山は北朝鮮で発行された新聞や書籍、CDなどを韓国に持ち込む許可を韓国政府から得ていた。こうした媒体は「特殊資料」と呼ばれ、韓国の研究機関や大学などで需要がある。

 旺載山は特殊媒体を韓国で販売し、その収益金を朝鮮総連に送金。韓国捜査当局は、朝鮮総連がこれを原資に故金日成主席から金正恩氏までの3代世襲を礼賛するための冊子などを発行したとみている。


軍事情報収集、爆破破壊工作指令も


 北朝鮮は韓国大統領府内部の動向、韓国軍の有事軍事作戦計画と組織編成のほか、在韓米軍の戦時機動計画、グアム・沖縄など米軍駐屯地域の衛星写真、日本の自衛隊の施設所在地や訓練プログラムなどを要求。

 一方、押収された証拠には「人民軍隊の戦闘力を強化するためにお送りしました」と題された文書とともに多くの韓国政治情報や軍事資料が含まれていた。

 中でも捜査当局が注目したのが在韓米軍の龍山(ソウル)と烏山(京畿道)など主要な軍事施設に関する詳細な衛星写真と「野戦教範」と呼ばれる冊子だった。

 衛星写真の中には原発、ガス貯蔵施設、国防産業施設、ペニョン島などの軍事休戦ライン近接地域の地形情報、弾薬保管庫やミサイル基地に関するものが含まれ、市街地の衛星写真は、全国256の市・郡・区別のもので、分解能10メートル級。一部の地域は砲弾による精密射撃が可能な分解能1メートル級の立体写真もあった。

野戦教範は戦闘時の米軍将兵の作戦指揮などについて詳述されたもので、冊子にして約400冊分の情報量だったという。

 北朝鮮はまた旺載山に対し、爆破テロによる後方攪乱まで指示していた。

 北朝鮮はソウルとその近郊の仁川地域を「革命の戦略拠点」と位置づけ、その地域で集中的に軍人や警察、治安関係者らを包摂するよう指示。「有事には行政機関と放送局を掌握」し、「石油貯蔵施設と軍の歩兵師団駐屯地などを爆破」するよう指示していたというのだ。

 そして2014年までには、そうした工作にいつでも着手できる準備を完了するよう指示されていた。

 こうした指示に対し、旺載山から北朝鮮にあてた報告書には「有事の際に動員可能な組織的力量(工作員数)は200人。反米闘争にはソウル、仁川地域の広範な大衆を動員できる」と記載されていたという。

 捜査当局は旺載山に包摂されて協力者となった可能性のある者が軍や保安機関内部にも相当数いるものとみているといい、今後、潜行捜査を進める方針だ。