国内企業の参画形態が今後の国産技術力を左右する。
2011.11.16(水)桜林 美佐:プロフィール
書店に行くと、よく「FXで失敗しないコツ」などといった本を目にする。この場合の「FX」とは外国為替取引を指している。
だが、FXは外国為替取引だけではない。航空自衛隊のFX(次期主力戦闘機)こそ「失敗しない」選定が、国家にとって喫緊かつ重大な案件になっている。期限は2011年内。いよいよ決断を迫られることになった。
「どうなるんですか、FXは?」と、まるで天気の話をするかのように、よく問いかけられるが、そうやって質問する人が必ずしも真剣に考えているわけではない。
先日は、ある著名なジャーナリストが次のような「暴言」を吐いた「戦闘機の数を半分に減らして、その分のお金を子育て支援に充てれば、女性は子供を産む」というのだ。戦闘機を減らしても出生率が増えるわけではないことは言うまでもない。
ことほど左様に、日本では戦闘機にまつわる誤解、あるいは稚拙な話が飛び交っている。
その間に、中国やロシアなどは着々と第5世代のステルス戦闘機配備に向けた準備を進めているのである。
ポッカリと穴が開いた戦闘機の国内生産基盤
FX選定について私なりの視点で申し上げると、問題の要諦は、これから先、日本が自分たちで日本の空を守り続けることができるかどうかにあり、選定機種そのものではない。そのことを改めて肝に銘じなければならないだろう。
そういう意味で次期戦闘機選定は、今回のみならず、次回のことまで考慮する必要がある。
今回、候補となっているのは「F35」「FA18」「ユーロファイター」の3機種である。運動性能や調達・運用のコスト、国内企業の参加形態(要は、ある程度ライセンス国産できるかどうか)などを点数化して評価することになる。
この中で、国内企業の参画形態は運用の生殺与奪を握っているとも言える。
FX選定は「F4」の退役に伴ってのものだが、F4の運用を支えていた企業の存在は大きい。F4の部品は、米国ではすでに生産が終わっている。三菱重工では図面をもとに部品をライセンス生産することで、機体の不具合にスピーディーに対応してきた。F4の安定した可動率につなげていたのである。
F4に限らず、どんな装備も日ごろの十分な整備が欠かせない。必要な部品や資材を必要なタイミングで提供するのは、国内に生産基盤があるからこそ可能なのだ。緊急発進を求められる戦闘機にとって、その生産基盤が自国にある意味は極めて大きいのである。
しかし、今、この基盤にポッカリと穴が開いた。F4が退役し、F2の生産も終了したため、戦闘機製造ラインには何もなくなってしまったのだ。
戦闘機の国際共同開発に参加する日は来るのか
そんな中、図らずも東日本大震災で松島基地に所属する18機の「F2」が水没したことで、うち6機を修理することになった。
三菱重工によるF2完納は今年である。水没した機種の修理で、ちょうどラインを途絶えさせずに済むのではないかと思いきや、実際には、修理機が同社のラインに乗るのは少なくとも3年ほど先のことなのだという。
そもそも戦闘機1機の生産に約1200社が関係しており、今年、納められた機体でも、部品製造のベンダー企業の手を離れたのは何年も前のことだったのだ。
つまり、それらの工場ではすでにラインを閉鎖していたり、部品の調達も困難となっている。予定外の再開は、そう容易なことではなさそうである。
いずれにせよ、F2の修理という不測の事態が基盤維持の救世主になるわけではない。やはり必要なのは、国内で次期戦闘機のライセンス生産を行うことだ。
それによりラインを維持して技術者の流出を防ぎつつ、次の戦闘機製造につないでいく。そうすることで、国内基盤の維持がかろうじて可能となる。
当然、武器輸出三原則を見直し、今や世界のトレンドである戦闘機の国際共同開発に参加できるよう、門戸を開くことも必須だ(F35もユーロファイターも複数の国による共同開発である)。高性能化が進む戦闘機の開発・製造にはコストがかかり過ぎ、もはや1カ国だけでは賄いきれない。
すでに遅きに失した日本の戦闘機戦略
以上は、生産・技術基盤維持の視点に重点を置いた見解である。
一方で、前述したように周辺国がステルス戦闘機配備を進める中、わが国がいかに「航空優勢」を維持できるかが最重要課題であることは言うまでもない。
仮にわが国がアメリカからF22を購入できていたならば(米国が生産を中止したため、輸入の道は閉ざされたが)、対外的にかなりのインパクトがあったであろうが、その場合、「ラ国」(ライセンス国産)は考え難く、国内の生産・技術基盤が失われること必至であった。
お気づきかと思うが、わが国の戦闘機戦略はすでに遅きに失している。危機が来ると分かっていながら、危機を迎えてしまったのだから。
今、できる最善の方策は、FXのラ国でつなぎ、防衛省技術研究本部(技本)と三菱重工が研究を進めている「先進技術実証機」(通称「心神」)を将来戦闘機に足るものに仕上げていくことではないだろうか。
優れた国産技術を磨いていることは強力なバーゲニングパワーになる。逆に国産技術を持っていなければ、国際共同開発に道が開けても、単なる「金ヅル」になってしまうのである。