西岡力ドットコム より。
追加制裁の必要性と現実性
必要性
北朝鮮 は3年前の平成20年8月、従来の「拉致問題は解決済み」という立場を改め、「拉致被害者に関する調査やり直し」を約束した。ところが、福田首相の辞任を理由に同年9月にその約束を反故にした。最近も機会あるごとに「拉致問題は解決済み」という言動を公式媒体などで繰り返している。
拉致問題を進展させるためには、解決済みではないという20年8月のラインにまで、まず彼らを戻すことが不可欠。
そのため、野田政権が20年8月の約束履行を日朝協議の入り口として重視していることを伝える必要がある。
制裁内容
現在、北朝鮮の国会議員(最高人民会議 代議員)である総連幹部6人(徐萬述・議長、許宗萬・責任副議長、梁守政・副議長、姜秋蓮・女性同盟委員長、張炳泰・朝鮮大学長、朴喜徳・商工会顧問)だけにかけている「北朝鮮 を渡航先とする再入国不許可」措置の対象を拡大する。
範囲は総連専従職員、総連中央と地方の役員、中央の局長以上役員(12人)、中央の5人の副議長(南昇祐、朴久好、高徳羽、裵益柱、裵眞求)などが想定できる。
効果
1.メッセージ これまで自公政権時代にかけられた対北朝鮮制裁はほとんどミサイル実験や核実験を契機に発動されたものであり、拉致問題を契機にして発動された制裁はない。拉致を理由に明示して制裁をかけると野田政権の拉致問題重視の姿勢を強くアピールできる。
2.実体的効果 総連幹部が訪朝できないことは、北朝鮮 にとって実際的にダメージある。制裁対象の徐議長や許責任副議長の代わりに南副議長が訪朝し、金正恩後継問題を含む政治指導を受けているが、それができなくなる。
來年2月から4月に北朝鮮 が計画している「強勢大国」記念行事(金日成 生誕100周年、金正日 70歳)に総連中央幹部が全員参加できなくなる。
(参考:北朝鮮 は20年8月の約束の際、見返りとして人的交流制限解除をチャーター便解除とともに要求した。同年9月9日建国60周年行事に大規模な総連代表団参加が計画されていた。金正日 急病で行事規模自体が縮小され総連代表規模も大幅縮小)。
制裁消極論への反論
1.裁判で負ける可能性
だれに再入国許可を与えるかは「外国人の権利ではなく当該政府の裁量」という学説が多数。
裁量範囲の逸脱を総連が主張する場合、彼らに立証責任。
そもそも1950年代、60年代までは総連系在日朝鮮人には原則として再入国許可を与えていなかった。総連が社会党などを使って北朝鮮 との自由往来を求める政治運動を起こし、70年代前半、韓国 が北朝鮮 と対話を開始したことを受けて再入国許可を出すようになった。
2.6者協議などの妨げになる。
北朝鮮 が米国 や韓国 への接触を行ない、6者協議再開に言及するのは来年の祝賀行事のため少しでもコメなどがほしいからで、彼らの方に接触の必要がある。日本が拉致を理由に制裁を追加してもそれを放棄するとは思えない。
3.(行われているかもしれない)水面下の日朝接触の妨げになる
水面下交渉で3年前の調査やり直し約束に戻れば、追加分の制裁解除を行なうと北朝鮮 に伝えれば、むしろ交渉促進材料になりうる。
4.いまがそのタイミングでない
3年前の約束履行を求めることと追加措置検討は昨年11月に民主党 政権が決めた8項目方針に入っている。約束反故3年の機会を逃すと追加制裁の機会がむしろ失われる。
以上
参考
朝鮮総連 役員
・現在制裁の対象になっている6人
北朝鮮の第12期最高人民会議 代議員選挙代議員(2009.03.08選出)
徐萬述・議長
許宗萬・責任副議長
梁守政・在日本朝鮮人商工連合 会会長
姜秋蓮・在日本朝鮮民主女性同盟中央本部委員長
張炳泰・朝鮮大学校学長
朴喜徳・経済委員会副委員長・在日朝鮮人商工連合 会顧問
・制裁がかかっていないその他副議長
南昇祐・総連中央副議長
朴久好・総連中央副議長兼権利福祉委員会委員長・
朝鮮人強制連行真相調査団朝鮮人側中央本部団長
高徳羽・総連中央副議長
裵益柱・総連中央副議長兼民族圏委員会委員長
裵眞求・総連中央副議長、事務総局総局長
・中央常任委員会 委員・局長級幹部12人(副議長兼任除く)
金弘哲 総務局長
康斗煥 宣伝広報局長
金淳喆 教育局長
金尚一、韓貞淑 民族圏委員会副委員長
陳吉相、邵哲珍 権利福祉委員会副委員長
呉民学 経済局長
徐忠彦 国際統一局長
金栄春 財政局長
趙孝済 財務担当常任委員
金教徳 祖国訪問事務所所長