中国船の相次ぐ領海侵犯、広告船まで出没。
2011.10.24(月)高井 晉
H22年(2010年)9月7日に中国漁船衝突事件が発生し、中国政府による尖閣諸島領有化が明らかになったが、日本政府は、毅然とした態度で中国政府に抗議をするどころか、中国政府の恫喝に屈するかのように、公務執行妨害容疑で逮捕した船長と漁船を即座に中国に返還した。
日本の領海に侵入した中国の漁業監視船(上)と追跡する海上保安庁の巡視船(2011年8月24日)〔AFPBB News 〕
事件発生から1年経過し、その間日本政府が尖閣諸島の領有を確実にする具体的な措置を講じたか否かは寡聞にして知らない。
新聞報道によると、尖閣諸島周辺に出没する中国漁船は月に50隻を数え、事件発生後今年8月末までに330件近く退去勧告を行ったという。
尖閣諸島付近では多くの中国漁船のみならず中国の漁業監視船が毎月のように出没しており、8月24日には海上保安庁巡視船の制止を振り切って領海内に侵入し、電光掲示板で「尖閣諸島は中国固有の領土」と主張したという。
石垣市議会議員によると、日本政府は、尖閣諸島周辺で操業するよう宮古島や石垣島などの漁民に補助金を支給しているが、中国の漁業監視船に怯えて出漁する漁船はいないという。
中国が、南シナ海でベトナムやフィリピンの漁船を不当拿捕したことを聞けば、宮古や石垣の漁民が怯えるのも無理はない。また石垣市は、政府に対し台風などからの避難のために魚釣島に港の建設を求めているが、まだ肯定的な返事はないという。
領海外国船舶通航法改正案と無害通航
超党派の「国家主権と国益を守るために行動する議員連盟」は、新聞報道によると、領海警備を強化する「領海外国船舶通航法改正案」、国境に接する離島の国有化を容易にする「特定国境離島土地先買い特別措置法案」など3法案を今秋の臨時国会に議員立法として提出し、法案の年内成立を目指すという。

国連海洋法条約は、外国船舶は沿岸国の「平和、秩序及び安全を害しない限り」無害通航権を認め、12の有害通航の態様を具体的に規定している。
日本の領海外国船舶航行法改正案によると、外国船による領海内での「情報収集や宣伝」などを無害通航と認めず、取り締まりの対象としており、これに違反する外国船舶の領海外退去を規定している。
一般に、外国船舶の通航が無害であるか否かは、まず沿岸国が優先的に判断し、これに不服がある場合は国際裁判で審議されることになる。
同法改正案は、日本が無害通航と認めない船舶通航の態様を明らかにしたもので、尖閣諸島に接近する船舶に対する抑止力になることが期待されている。同法改正案が領海における有害通航を規定したことは、一定の評価に値し同法改正案の早期成立を期待したい。
しかしながら同法改正案が成立し、海上保安庁の巡視船が違法船舶を取り締まったとしても、従来と同じ「イタチごっこ」になる可能性があり、この程度の法改正では十分と言えない。
尖閣諸島の竹島化は絶対に避ける必要があり、中国人の魚釣島上陸は何としても阻止しなければならない。
非武装上陸を阻止できるか
中国全土で火がついた反日デモ(写真は重慶、2010年10月)〔AFPBB News 〕
中国や台湾には、尖閣諸島の領有を頑なに主張する保釣協会がある。今年6月、台湾の保釣協会が尖閣諸島観光を企画したが、資金不足で中止になったと報道された。
観光船が魚釣島周辺領海を無害通航し、2000人ほどの観光客が海に飛び込み、魚釣島へ上陸を図ったとしたら、日本はどのように対処したであろうか。
このような非武装中国人による尖閣諸島上陸は杞憂に過ぎないが、対処方策を検討しておく必要があろう。
領海外国船舶通航法改正案が成立しても、観光船は「情報収集や宣伝」を目的としていないため、尖閣周辺領海を無害通航できる。
たとえ同島に陸上自衛隊員が常駐していたとしても、非武装の中国人を海へ追い返すことは難しく、緊急事態あるいは人命救助として上陸を認めざるを得ない。
入管難民法に基づいて入国審査を行おうとしても、これら「一時庇護民」2000人が頑なに抵抗した場合、港がない魚釣島から石垣島へ同行させることは困難であろう。
さらに魚釣島の「一時庇護民」が、自衛隊から提供された水や食べ物を信頼できないと拒否し、中国政府に対し水や食物の供給を要求したとしよう。中国政府は、これに呼応して水や食糧運搬船を尖閣諸島に差し向けるかもしれない。
日本政府は、果たしてこの船舶の魚釣島接岸を拒否できるだろうか。もし拒否すれば、中国政府は日本の非人道的行為を世界に向かって声高に吹聴するであろうし、人道問題に弱い日本政府は十分な反論ができると思われない。
さらに「一時庇護民」が雨露をしのぐ宿舎を要求し、中国政府が人権問題であると国際社会に吹聴すれば、日本政府は宿舎等の居住環境を整備するかもしれない。
「一時庇護民」を拘束して石垣島へ連行しようとすれば、中国政府は人権問題として国際社会にアピールするであろう。
仮に抵抗する全員を石垣島へ搬送しても、次の「一時庇護民」が泳いで上陸を図るであろうし、「一時庇護民」が魚釣島で生活する状態が5年、10年と継続し、中国の食糧運搬船が頻繁に往来すれば、諸外国は、魚釣島を中国の領土とみなしても不思議ではない。
シカゴ条約のアナロジー
活動家を乗せて尖閣諸島へ向かう台湾の漁船〔AFPBB News 〕
中国は、すでに領海法を制定し尖閣諸島を自国領土としている。これに対抗する法的措置として、シカゴ条約のアナロジーが考えられないだろうか。
シカゴ条約締約国の不定期民間航空機は、一定の条件の下に、外国の空域を許可なく飛行できる。
被飛行国は、「軍事上の必要または公共の安全のため」であれば、「特定区域」の上空飛行を制限または禁止することができ、外国航空機は、被飛行国の着陸要求の命令に従わなかった場合、「飛行の自由」を享受できず強制着陸させられ、着陸国の裁判に付される。
領海外国船舶通航法の改正案は、外国船舶の情報収集や宣伝は無害ではないと規定しているが、これに加えて、日本の「平和、秩序及び安全のため」に外国船舶の通航を制限する「特定区域」として、「3カイリ以内の尖閣諸島領海」を規定することが望ましい。
領土紛争拡大の防止の目的で、同法改正案に魚釣島周辺「特定区域」を明示し、尖閣諸島が日本領であることを諸外国に知らしめるのである。
「特定区域」の規定は、中国観光船が尖閣諸島へ接近することに対する抑止力となろう。同区域を通航する観光船を拿捕した場合、中国政府は、政治的に猛反発するであろうが、武力を行使するとは思えない。
もし武力行使で応えれば、国連憲章で禁止される武力行使になり、中国側の非が明らかになる。「特定区域」設定の国際法上の正当性は、国連海洋法条約の解釈問題なので、調停手続あるいは国際海洋法裁判所などの国際裁判で争うことになろう。
尖閣諸島問題は、日中合意の上で国際司法裁判所の判断を仰ぐべきであるとする主張がある。
しかし日本は、尖閣諸島に対する十分な領有権原を有しているので、国際司法裁判所で解決する必要はないのであり、藪から棒に領有権を主張してきた中国政府の付託提案に乗るべきではない。
仮に国際司法裁判所で争った場合、法理論的に日本に十分勝算があったとしても、最近の同裁判所は途上国に有利な判決を下す傾向にあり、また判事に対する腐敗工作などにより中国の領有権が判決される可能性も排除できないからである。
海上保安庁の巡視船に体当たりする中国漁船(2010年11月5日)〔AFPBB News 〕
領海外国船舶通航法改正案に「情報収集や宣伝」や「特定区域」を規定したとしても、ことが簡単に収まると思われない。
非武装中国人の上陸を阻止するためにも、海上保安庁巡視船や海上自衛隊の艦船が常時パトロールを強化し、法令の執行を確保しなければならない。
政府は、十分な領土意識そして主権意識に基づいて、艦船による法令執行を支援し、尖閣諸島領有に対する毅然とした態度を内外に示す必要があろう。
ベトナムやフィリピンは、南シナ海の島嶼領有をめぐって中国と対峙しているが、魚釣島よりはるかに小さい島嶼に滑走路やコンクリート製の建物を構築し、警備官が常駐して領有意思を明確に表明している。

日本政府は、魚釣島に対する実効的支配を明確にするために、石垣島民が希望する避難港のみならず、恒久的な灯台や監視台等の構築や自衛隊員常駐も考慮すべきであろう。
常駐の自衛隊員は、非武装の「一時庇護民」の上陸と石垣島への搬送の訓練を重ねておかなければならない。
領土問題は、国家意識や愛国心を刺激するため、その根本的な解決は困難である。尖閣諸島と異なり外国官憲が居住している竹島や北方領土の場合は、憲法第9条で武力行使が禁止されている以上、軍事力を行使した強制的な解決は不可能である。
一般に領土問題の解決は多くの時間を必要とするが、尖閣諸島に対し具体的かつ実効的な支配を継続することは、中国に対する日本の強固な意思の表明として必要不可欠のことであろう。日本政府の曖昧な態度は、単純な問題をかえって複雑にしているように思えてならない。