「制度疲労」の遺骨収集。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【40×40】笹幸恵




今月初め、遺骨帰還事業に関する疑惑が一斉に報道された。厚生労働省から事業を委託されていたNPO団体「空援隊」によって収容された遺骨に、フィリピン人の遺骨が混入しているのではないか、というものである。厚労省の検証報告書によれば、鑑定前の遺骨の科学的調査で「旧日本兵の遺骨である蓋然性が低い遺骨が含まれていた」という。現地では先祖の墓が荒らされ、骨が盗まれたとの報告もある。しかしその一方で、盗骨事件と遺骨帰還事業とを関連づける証言等は得られず、また日本兵の遺骨であるという「宣誓供述書」の内容の虚偽を確認できなかったとある。

 厚労省はこれらを踏まえた上で改善策を示しているが、それが現実的であるか、首をかしげざるを得ない。たとえば「遺骨への対価の支払いをしないことを徹底」とあるが、これは以前から言われていたことである。フィリピンに限らず、現地での金銭トラブルは尽きない。発掘作業の労賃として支払っているつもりでも、現地では「遺骨は金になる」と受け取られてしまう。しかし労賃も払わずに遺骨を取り上げたら、現地の人々の反感を買う。これを解決するには、日頃からの地道で濃密なコミュニケーションしかない。つまり手間暇がかかるのだ。今まで現地事情についてさえ、ろくに引き継ぎが行われていない厚労省に果たしてそれができるのか。

以前、私は本稿で、遺骨帰還事業は遺族援護の観点から脱却すべきだと書いた。遅々として進まないからである。あまりに進まないから、厚労省もフィリピンでは民間団体に委託したわけだが、結果的に事業の杜撰(ずさん)さを露呈した。厚労省に全ての責任があるとは思わない。もはや、この事業のやり方そのものが制度疲労を起こしているのである。根本的に見直さなくてはならない。今回と同じような問題は、どの方面においても起きる可能性がある。無関心を決め込む戦後の日本人に、戦没者たちは大きな課題を突き付けているように思えてならない。


                                  (ジャーナリスト)