【名言か迷言か】どうする野田首相?
野田首相と懇談した拉致被害者家族(大里直也撮影)
7月30日付の当欄でもふれたが、菅直人前首相の北朝鮮拉致問題に対する関心は極めて低かったようだ。退陣直前には「置き土産」のように朝鮮学校の授業料無償化手続きを再開するよう文部科学省に指示した。
これでは、北朝鮮が朝鮮総連を通じて朝鮮学校を間接支配する「仕組み」に、お墨付きを与えるようなものだ。菅氏は拉致実行犯の釈放嘆願に署名した前歴を持つ。今回の愚策で歴史的な「恥の上塗り」を犯したと言っていいだろう。
一方、後任の野田佳彦首相は8日、就任1カ月余で2度目となる拉致被害者家族15人と面会し、「国際社会に問題の重要性を認識してもらい、理解と協力を求めていく。一日も早いご家族の帰国に全力を尽くす決意だ」と述べた。
自らの訪朝についても「私が行くことで拉致問題を含めた諸懸案が解決するならいつでも行く」と意欲を示した。
公務員宿舎朝霞住宅問題で明らかなように官僚依存の政権運営や、代表選を境に党内融和路線を強調し始めた野田氏だが、保守政治家として拉致問題に対する熱意だけは本物だと信じたい。
首相が家族と面会した翌日、韓国国会の野党、自由先進党の朴宣映議員が、横田めぐみさんは2004年末から05年初めの時点で生存していたとの情報を、07年に北朝鮮を脱出した男性から得たと明らかにした。
しかも、この男性は「めぐみさんが工作員教育を受ける過程で多くの秘密を知ってしまい、(日本に)戻したくても帰国させることができなくなった」と証言しているという。北朝鮮がめぐみさんのものとして04年11月に日本政府に提出した「遺骨」も「偽物だ」と話した。
何だか、これまで日本で推測されていた話に見事なまで迎合したような証言ではある。しかも、脱北者情報には真偽の程が定かでない話が少なくない。政府関係者の一人も「4年も前から知っていた話を、なぜ今したのかという疑問は残る」と話す。だが、裏返せば「もし事実なら、横田さん以外の拉致被害者も健在であることを示す重大証言」(民主党若手)といえる。
ただ、北朝鮮は日本が交渉再開を要求しても、やすやすと応じる可能性は極めて低い。横田めぐみさんや田口八重子さんは工作員の日本人化教育にまで関わっている。国家機密まで知る人間を帰国させることは、自らの不法国家ぶりを全世界に知らしめることを意味する。だから帰国は到底、容認できないのだ。
その意味で、カギを握るのは世界最大の軍事大国、米国だ。北朝鮮は生き残りのため、日本の経済支援以上に米国による体制保証を求めている。
大統領選を来年に控え、拉致問題を前進させた「実績」はオバマ氏の再選戦略にも大きな弾みをつけるはずだ。冷淡な態度を示すことはないだろう。
また、他の六カ国協議参加国のロシアと韓国も来年、大統領選を控え、中国は最高指導者が交代する。小泉純一郎元首相の初の訪朝から10年となる「2012年」を拉致問題を動かす好機とできるか。野田首相には「拉致問題の重要性をアピールし、緊密な連携を確認」などという、事務レベル外交の繰り返しで終わる事態だけは避けてもらいたいものだ。(森山昌秀)
(11日)
▽Overcome
野田佳彦首相 米国公民権運動のテーマソングだった「We Shall Overcome(われわれは打ち勝つ)」という気持ちで、さまざまな国難を克服したい。(連合幹部との会談で)
▽ネクタイ締めない
渡辺喜美みんなの党代表 首相はコンバインに乗って農作業を体験したようだが、ネクタイを締めてするものではない。現場が分かっているのか疑問だ。(首相の農業視察について党会合のあいさつで)
(12日)
▽妙な亡霊
亀井静香国民新党代表 環太平洋連携協定(TPP)という妙な亡霊が日本を徘徊(はいかい)し始めている。乗ってはいけないバスで、乗った途中で飛び降りることなんてできない。(TPP交渉参加問題に関し党議員総会で)
▽情報と決断
岸田文雄自民党国対委員長 国会対策で何よりも大切なものは、情報収集と決断だ。みんなで協力し、政権奪還に向けた道筋をつくっていきたい。(次期臨時国会に向け、党会合で)
(13日)
▽仕分けを進化
藤村修官房長官 過去の仕分けを踏まえてより進化させる。良い面は採用するが、あの時のイメージにこだわらない方が良い。(11月に実施する「事業仕分け」第4弾について記者会見で)
▽信頼はこれから
岸田文雄自民党国対委員長 顔を合わせるようになってから日数もたっていない。数を重ねることで少しずつしっかりと信頼関係を築いていきたい。これからだ。(平野博文民主党国対委員長について記者団に)