【外信コラム】台湾有情
清朝を倒し中華民国成立の発端となった辛亥革命から100年というので、革命の指導者、孫文の「三民主義」(岩波文庫)を引っ張り出して再読した。
原典の原稿は戦乱の中で焼失。現存するのは革命後の1924年、孫文が広州の高等師範学校で記憶を頼りに語った講演速記録だから、表現は平易で、居酒屋で話し上手な知恵者の持論を聞いている気分になる。
「民族主義」では、てんびん棒の竹竿(ざお)1本が財産という港湾荷役労働者が、宝くじが当たったうれしさに、くじを隠してある竹竿を海に捨ててしまう例え話で「竹竿こそ民族主義」と説明。堅持した日本は明治維新を完遂したが中国は捨て去った、日本に学べ、と力説する。
そんな話題を台湾の若者に投げたが無反応だった。民主化で多様な価値観に配慮した近年の台湾の学校では歴史用語として教えても内容までは触れない。
来年1月の総統選で政権奪還をめざす最大野党・民主進歩党の蔡英文主席は、中国に配慮し、独立色を薄めつつも、遊説先の式典での「国歌」斉唱で「三民主義はわが党の指針」の歌詞部分のみ口をつぐんだ。
一方、再選をめざす馬英九総統の選挙参謀は、孫文が命がけで倒した清朝の、満州族の血をひいているそうだ。一口に100年とはいうけれど。
(吉村剛史)