【書評】
『日本に自衛隊がいてよかった自衛隊の東日本大震災』
桜林美佐著
「自分が行きます!」の魂
東日本大震災および福島第1原発事故にたちむかった自衛隊員たちの姿を描いたものである。私は読み終えて淡彩の素描、しかし無数のそれを続けて見た気持ちになった。
震災発生直後に誠に素晴らしい時宜を得て出された天皇陛下のお言葉で、自衛隊はその活動ぶりを真っ先に嘉(よみ)され、鬼っ子だった長い歳月を終え国軍となった。国民はとうに知っていたことだが改めてその存在の尊さを知った。
鬼っ子にし続けてきた大マスコミはそれでも自衛隊を無視していた。しかし国民感情は看過できない。さまざまな出版社が自衛隊の活躍ぶりを報じる冊子を出した。その多くは写真集だった。あるいは麻生幾の『前へ!』があった。いずれも素晴らしい本である。自衛隊の献身のありさまが写真の情報量、麻生の場合は取材力によって濃厚に描かれている。いわばこれらは油絵としての記録であった。
桜林美佐は違う手法をとった。あるいはそれは初出が『夕刊フジ』の連載であったためかもしれない。限られた字数、コラムである。私は地下鉄で移動するときに気まぐれに同紙を買う。桜林のこのコラムを見つけたときからは毎回買った。移動がなくとも駅まで行って買った。それほど読ませるコラムであった。
字数にして1千字ほどであろうか。そこには感動を誘う長い物語は書けない。ただひとつの出来事の断片を記すだけである。しかしそれだけで桜林は10万人の自衛隊がなしとげたことすべてへの想像力を私たちに与えてくれた。それは彼ら彼女らを貫く一本の「棒」を輪切りにして書き切っているからだ。私はこれらを連続する淡彩の素描として毎回楽しく読んだのである。読めば読むほど身体にしみこんでくる物語だった。
前書きの冒頭で桜林は書く。多くの防人(さきもり)が言った言葉として「自分が行きます!」と。私はこれを書名にしていいのではないかと惜しんだ。本書を貫くのは近ごろ喧伝(けんでん)される「愛国心」などではない。「自分が行きます!」ただそれだけなのだ。しかしそれが貫徹されたとき、これほど頼もしい愛国の魂はない。(産経新聞出版・1260円)
評・勝谷誠彦(コラムニスト)