暗黒連合 軍の宇宙戦艦内に、何処からともなく重厚な「帝国のマーチ 」が流れはじめる。
ズンズンズン、ズズズン、ズズズン。ズンズンズン、ズズズン、ズズズン。
腹に響く恐ろしいメロディと共に現れたのは、黒いヘルメット に黒マント、全身黒ずくめの奇怪な大男。ご存知、ダースベイダーだ。
残念ながら、映画でお馴染みのダースベイダー卿ではない。その名もダースベイダー2世。2世と云うより偽モノと云う気もするが、本人は大真面目だ。略して通称、D2。暗黒世界の元締めである。
「うわ、将軍がお見えだ」
D2の登場に異様な緊張が走る。居並ぶ手下共が直立不動の姿勢を取った。
挨拶の口上を述べ始めたのは禿げバンクだった。
「偉大なる将軍様の慈悲深いご指導により、日本国民の富を収奪することが出来まして・・・」
「いいから座れ」D2が野太い声で禿げを制した。ヘルメットの通気性が悪いのか、ぜーぜーと苦しそうに息が漏れる。
「おい、蛆。貴様のビルに新品の日の丸が掲げられたそうではないか」D2が脅すように尋ねた。
「はは、はい」蛆が哀しそうにうつむいた。
「一体、何をしておるのだ。アルソック星人まで警備につけながら、デモ隊の日章旗掲揚ごときが阻止できぬとは」D2は不快さを隠さない。
「街宣右翼を使って国民に保守思想への嫌悪感を与える一方、マスメディアから国旗や国歌を極力排除してきたわが軍の努力が水の泡ではないか」
「いや、あれは蛆さんが悪いんじゃありません」口を挟んだのは石鹸屋の三日月だった。
「いつのまにか愛国心に目覚めた連中がわれわれを攻撃してくるのです。ウチなんぞ不買対象になってしまい・・・、やはり、こういうものはしっかり世論を抑えてもらわないと」
「ウチも不買対象です」同調したのは酒屋のチョントリーだった。「最近、当社ブランドの指名買いがあるのは、客がトンスルを求めるときだけです。何とか、当社のよいイメージを流してくれないと・・・」
「ぶぶぶ、ぶわっかも~ん!」D2の怒声が飛んだ。「きき貴様らは、このわしが悪いとでも云うのか。世論を抑えろだの、よいイメージを流せだの。たかがスポンサーの分際で、なな生意気を云うなっ!」
憤りのためか、息使いが激しい。呼吸音を混じえつつ、D2の語りが続く。
「きき貴様らの会社など、いつでも潰そうと思えば潰せるのだ。全ての情報はこのわしが握っている。貴様らはわしの振り付け通りに踊ればいいのだ。ばばば馬鹿モノめ」
「いいか。日本にはまともなマスメディアなど存在しないのだ。全て思想宣伝の工作機関だ。それをこのわしが独占支配している。情報を限定し操作するから、世論など形成しようがない。世論に見せかけているが、実は大衆の意見はこのわしの意志なのだ。」
「そもそも一般人に意見を述べるだけの思考力はない。スポーツ、セックス、スピードの3S政策を強力に押し進め、既に全国民を愚民化した。外交も軍事も情報は完全に遮断した。国内政治も政治家同士の抗争しか報じない。庶民には何も見えない。」
「日本の民主主義は幻想だ。これなら戦前のほうが余程民主主義だった。情報の選択肢も得られず、世論も形成できぬ国民では民主主義は絶対に機能しない。現実を見ろ。わしの洗脳通りに投票するだけの愚民だから」ここで一旦間を置いて、手下共を見渡した。
「民主党 政府が誕生した」
「このわしに忠実な者は、一時的にデモや不買運動にさらされるかも知れぬ。しかし貴様達は永遠に安泰だ。このわしが情報を操作して徹底的に守るからだ。そして損失は必ず取り戻せる。半島の父母や兄弟の日本支配が完成するからだ。貴様達は英雄だ。」
ここまで聞いた禿げバンクが、将軍の慈悲深さに胸を打たれたか、おいおいと泣きはじめた。蛆や三日月の瞳にも涙が光る。
自らの言葉に酔ったのか、D2の声が大きくなった。
「覚悟せよ。これは戦争だ。ネットで情報交換する草の根保守を叩き潰すのだ。日本軍との全面戦争開始だ!」
D2はすっと窓際に近寄ると、船外の宇宙空間にまたたく無数の星と向き合った。俺はこの日を待っていたんだ。憎き日本国を支配し、長年の恨みつらみを晴らす日を。その思いをぐっと噛み締めたとき、チョントリーがうしろから声をかけた。
「まるでスターウオーズですね。」
D2が振り返り様に云った。「違う。戦争開始だ。スタート、ウオーズだ。」
手下共全員がきょとんとした顔つきになった。「でもスターウオーズにそっくりだし。それってダースベイダーの衣装だし・・・。まるっきり、パクリですよね。」
「当たり前だ。」D2が答えた。
「これぞ韓流 だ。」