【公民教科書採択の危機】逆転不採択を後押し。
沖縄県石垣市と与那国町、竹富町からなる「教科用図書八重山採択地区協議会」が選定した育鵬社の公民教科書が一転「不採択」とされた問題で、文部科学省は15日、県教委に対し、16日までに3市町が同協議会の選定に基づいた採択を行うよう文書で指導した。事実上、竹富町教委に育鵬社の採択を求めたもので、同町教委の対応が注目される。一方、この問題をめぐる地元メディアの「偏向報道」については「不当な逆転不採択を後押しした」と問題視する声が出ている。
■最大級の扱い
「『つくる会』系不採択」「育鵬社版不採択」。
9月9日、琉球新報と沖縄タイムスは1面に大見出しを掲げた。琉球新報は社会面でも見開きで「平和・人権貫く勝利」「住民胸なで下ろす」、沖縄タイムスも「採択逆転 市民安堵(あんど)」と最大級の扱いで報じた。
始まりは7月中旬。琉球新報が、協議会会長を務める石垣市の玉津博克教育長の「改革」を批判的に報じた。これまで採択権のない教員の意向で決められていた不適切な採択方法を改めようとするものだったが、以来、両紙は玉津氏を「独善」と断じ、「戦争賛美の教科書採択への布石」などとする市民団体や教職員組合の主張を書き続けた。
協議会が育鵬社を選定すると、やはり1面などで大展開し、「行き着くのは戦争」「『皇民化』に危機感」「大変なことになった」と“反発”した。
竹富町教委が2度にわたり育鵬社を不採択とすると、琉球新報は社説で「竹富町が提案したように3市町の教育委員全員で合意形成を図るのも一つの方法」と述べ、採択に関し法的根拠のない全員協議へと“誘導”していった。
■世論調査も?
「沖縄タイムスでは56%、琉球新報では61%が育鵬社に反対している」
8日の3市町の教育委員全員による協議で、竹富町の慶田盛(けだもり)安三教育長は両紙の世論調査の数字を持ち出して育鵬社反対を訴えた。
玉津氏は「大事なのは世論ではなく法律」と一蹴したが、その世論調査の数字にも疑問符が付く。
琉球新報の世論調査に答えた石垣市の女性看護師(52)は「調査員は『育鵬社は沖縄戦の集団自決で日本軍の関与を認めていませんが』といった前口上を話した後で質問してきた。育鵬社を選びにくい雰囲気にさせる誘導的な質問の仕方だった」と証言する。
■「県民の総意」
結局、全員協議では強引に採決に持ち込まれ、手続きに何の瑕疵(かし)もない協議会の決定が覆されたが、こうした「偏向報道」に県教委が乗じる形で生み出された「逆転不採択」は、文部科学省に「無効」と否定された。
石垣市の砥板(といた)芳行市議は「あれだけ毎日不採択キャンペーンをやっても反対は6割。それが県民の総意であるかのように報道する姿勢は問題」と批判する。
沖縄本島では、革新系の両紙で9割超のシェアを占めるとされる。八重山地区でも革新系の地元紙が9割超。石垣市政関係者は「保守系と革新系両方あればいいが、沖縄では革新一色。論調に洗脳される読者もいれば、あきれている読者もいる」と指摘している。
産経新聞は文書で一連のキャンペーン報道について(1)地元住民から出ている「公平性を著しく欠く偏向報道」との指摘に対する見解(2)キャンペーン報道の理由などをただしたが、琉球新報は「質問内容に事実誤認があり、回答を控えさせていただきます」とした。
沖縄タイムスは「報道全体を通して判断していただきたいと思います」と回答した。
沖縄県の地元紙は約2カ月間、連日育鵬社反対キャンペーンを展開した