福島原発事故の「被害」とは何だったのか。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 





賠償や除染の前に被曝限度の再検討が必要だ。


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 東日本大震災から、半年がたった。死者・行方不明は約2万人という大災害だが、そのほとんどは津波による犠牲者である。福島第一原発では、放射線で死んだ人も致死量の放射線を浴びた人もいない。

 

 福島県は9月12日、原発の周辺に住んでいた住民の内部被曝についての検査結果を発表した。それによれば、8月末までに検査した3373人のうち、被曝線量が最も高かったのは浪江町の子供2人で、いずれも70歳までの生涯被曝量で2ミリシーベルト台。ほとんどは生涯1ミリシーベルト未満で、ICRP(国際放射線防護委員会)の定める年間20ミリシーベルトをはるかに下回る。

 

 4月に現地調査を行った高田純氏(札幌医科大学教授)によれば、原発の周辺でも被曝量は3日間で0.1ミリシーベルトで、年間に換算しても12ミリシーベルトだ。農産物などの残留放射能も5000ベクレル/キログラム程度で、これはシーベルトに換算するとキログラムあたり0.1ミリシーベルト程度だ。世界の被曝地を現地調査した経験から、高田氏は「被災者は今すぐ帰宅してもよい」という。

 

 したがって半年近く避難した人々への補償は必要だが、農産物などの風評被害をどこまで賠償するかは慎重に考えるべきだ。

 

 東海村のJCO事故の時は、風評被害を無条件に認めたため、150人が退避しただけなのに賠償額は150億円に上った。今回、それと同じ基準で賠償すると10兆円を超える。福島県の農産物の年間出荷額2500億円に対して、あまりにも大きい。

微量放射線の影響には科学的根拠がない

 さらに問題なのは、ICRPの決めた被曝限度に科学的根拠がないことだ。広島・長崎などの被爆者の調査では、累積で100ミリシーベルト以下の放射線で発癌率が増えたというデータはない。ICRPの基準については、多くの科学者が批判している。

 

 特に問題なのは、どんなに微量の放射線でも発癌率を高めるというLNT仮説(線形閾値なし仮説)である。

これは1958年に、医学界の反対を押し切って決められたものだ。学問的には、LNTは仮説というほどのものではなく、100ミリシーベルト以下では発癌率が高まったというデータがないため、線形(比例配分)で外挿しただけだ。

 

 100ミリシーベルト以下では、他の要因の影響の方がはるかに強いため、放射線の影響は問題にならない。例えば喫煙によって癌で死亡するリスクは16倍ぐらいに上昇する。これは放射線に直すと2000ミリシーベルトの被曝に相当する。飲酒や肥満などの生活習慣によっても発癌リスクは上がるので、微量放射線の影響は問題にならない――と中川恵一氏(東大医学部准教授)は指摘している。

 

 ICRPの基準では、緊急時には20ミリシーベルト、平時には1ミリシーベルトという被曝限度を決めているが、1ミリを基準にすると、世界の平均線量は年間2.4ミリシーベルトなので、世界中が危険地帯という奇妙なことになる。

 

 微量放射線が健康に影響を及ぼさないのは、人体に微細な遺伝子の傷を補修する機能があるからだ。生物は38億年の進化の中で、そういう防衛能力を身につけており、わずかな放射線を浴びたぐらいで死ぬような個体は今まで生き残っていないだろう。

 

 例えば耳のすぐ横で爆竹を爆発させたら難聴になるが、100メートル先で爆竹が鳴っても鼓膜は傷つかない。このように外部からの刺激による傷には一定の閾(しきい)値がある。放射線のようなありふれた刺激に閾値がないということは考えにくい。

過剰な放射能騒動は被災地の復興を阻害する

 安全のコストがゼロなら基準は厳しいに越したことはないが、安全はタダではない。過剰な安全基準によって原子力施設のコストは数百倍になり、立地は極めて困難になっている。

 

 原発のみならず、放射性廃棄物の再処理施設や貯蔵施設にも厳重な防護設備が必要だ。例えば貯蔵施設の安全基準は、施設の中に住み続けたら発癌率が1%ほど上がる程度の非常に厳格なものだ。

 

 安全基準を別にして考えれば、原子力は重量あたり石炭の1万倍以上のエネルギーを出すことができ、備蓄が容易で、エネルギー安全保障にも有利だ。

それを捨てることは、日本経済にとって大きな損失になる。中国は安全で効率的な第3世代原子炉を60基発注し、発電量で日本を追い越そうとしている。

 

 問題は建設費だけではない。ICRPは「LNT仮説は放射線管理の目的のためにのみ用いるべきであり、すでに起こったわずかな線量の被曝についてのリスクを評価するために用いるのは適切ではない」と書いているのに、事故後の補償や除染にもLNTを適用すると、莫大なコストが発生する。

 

 例えば年間1ミリシーベルト以上の表土はすべて除去するという基準を適用すると、ほとんどの学校の砂場の砂を除去しなければならない(東京ではそういう作業が始まっている)。ソフトバンクの孫正義社長は「福島県内の土をすべて掘り起こすと800兆円かかる」と言っているが、これが現在の基準がいかに非現実的かを物語っている。

 

 このような過剰な安全基準によって、10万人以上の避難住民はいまだに帰宅できず、彼らに対する差別も生まれている。「放射能をつけるぞ」と言って更迭された鉢呂吉雄前経産相は、その一例だ。被災者が半年以上も避難所生活を続けることはストレスを増やし、かえって健康に悪い。

 

 過剰な安全基準によって賠償や除染を行うと、東京電力の経営が破綻するばかりでなく、最終的には電気代に転嫁され、最悪の場合には納税者が負担しなければならない。

 

 賠償や除染を行う前に被曝限度を再検討し、科学的根拠に基づいて合理的な対策を取るべきだ。