【主張】尖閣沖衝突1年
1年前の9月7日、沖縄・尖閣諸島沖で中国漁船が領海に侵入したあげく、海上保安庁の巡視船に体当たりを繰り返した。海保は中国人船長を公務執行妨害罪で逮捕したが、那覇地検は処分保留のまま釈放した。
事件をめぐる日本政府の迷走、弱腰ぶりは惨憺(さんたん)たるものだった。だが事件の処理は、まだ終わっていない。事件は菅直人前政権が残した苦い教訓だったと幕を引くことなく、野田佳彦政権には断固たる対応が求められる。
野田首相は民主党代表選時の共同会見で、「領土領海に弱い日本というのは残念ながらこの2年間、定着してきている。何かあったときのシミュレーションをきっちりやっておくことが大事だ」と述べた。
野田首相が憂慮する「領海に弱い日本」を強く内外に印象付けたのが、まさに尖閣沖の衝突事件だったといえる。
中国人船長を釈放した際、那覇地検は「今後の日中関係を考慮した」とその理由を述べた。政府は「地検の判断」と関与を否定し続けたが、誰も信じてはいない。
中国人船長の釈放で捜査は事実上、終了していながら、不起訴処分(起訴猶予)は今年1月にずれ込んだ。
この間、政府は海保が撮影した衝突映像が刑事訴訟法の「証拠」であることを理由に公開を拒み、海上保安官によるビデオの流出事件も誘発した。
ビデオはいまだに全面公開されていない。政府は正式な形での公開を急ぐべきだ。
こうした不自然な捜査に対し、那覇検察審査会は7月21日、「市民の正義感情を反映させるため」として、中国人船長を強制起訴すべきだと議決した。現在は那覇地裁で指定された弁護士が検察官役として起訴状を作成している。
起訴状は公判請求から2カ月以内に中国人船長に送達されなければ公判は開かれず、公訴棄却となる。船長出廷の実現性が低いからといって時間切れを待つような事態になれば、野田内閣も、前政権同様の弱腰を踏襲しているとみなされるだろう。
起訴状は政府の責任で、すでに帰国している中国人船長に届けなくてはならない。これは、日本の主権を守るための外交だ。野田首相には、その先頭に立つことが求められる。