【尖閣1年】一色正春・元海上保安官インタビュー。
沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件から7日で丸1年。現場映像をインターネット上に“流出”させた一色正春・元海上保安官(44)が、産経新聞の取材に応じた。尖閣諸島をめぐる現在の情勢について「事件前より一段階進んだ」と指摘、後手に回る政府対応に警鐘を鳴らした。(原川真太郎)
--事件から1年たつが
私の役割は(映像をユーチューブに投稿した)昨年11月4日で終わったと思っているが、事件の問題点、論点がそれてしまった気がする。今年8月にはついに中国公船が領海内に侵入した。中国の攻勢が一段階上の状態になっているが、政府からは何か手を打とうという意思が感じられない。民主党代表選でも、外交・防衛には一言も触れていない。
--事件後の政府対応は
何がやりたいのか分からない。話し合いにせよ実力行使にせよ、はっきり態度を示すべきなのに。これだけ中国にやりたい放題されていると、逆に危険を感じることもある。力ずくで尖閣を取り返せ、という機運が盛り上がり、大規模な衝突が起きないとは言えない。
本当の日中友好を考えれば、一方的にへりくだるのは逆効果。第二次世界大戦前のヨーロッパを思い起こしてほしい。戦争を恐れるあまり、その結果として戦争になってしまうこともある。
--映像流出については
ありのままを見て判断してもらうにはあれしかなかったと今でも思うが、知識のない人たちに何の注釈もなく出したのは少し乱暴だったかもしれない。映像には無数の中国漁船が写っている。衝突だけが注目され、日常的に違法操業が行われている中で起きたという「背景」などが伝わっていないという思いはある。
--海保は海上警察権の強化を打ち出したが
現場で起こっている現実から、かなり遅れた感があるが、やるべきだろう。しかし、それより大事なのが、違法操業については今まででも取り締まる法律があったのに、それを正しく運用し取り締まってこなかったこと。それについて検証しなければ新しい法律を作ったところで正しい運用はできないだろう。
また、国内法では公船に対しては除外規定があり、また国際法の絡みもあり難しい。現状は警察力で対応できない領域に入りつつあると思う。
--検察審査会は船長に起訴議決を出した
議決でも、釈放理由が明らかにおかしいと指摘されている。一方で、中国は謝罪と賠償を要求している。国としてどう対応するのか。政治的配慮でうやむやにするのだけはいけない。
--今必要なことは
このようなことが起きることは1年前から予測できたことなのに、何の手も打ってこなかった。今からでも遅くないので、もし漁業監視船でなく、軍艦が尖閣に来たらどうするのかを考え、実行に移すべきだ。
東日本大震災の原発事故と同じように、想定外では済まない。場当たり的対応は状況を悪化させるだけ。自衛隊に守らせるというなら、死傷者を出す覚悟が果たしてあるのか。領土を守るには気概、明確な意思が必要。問題を先送りしても火種が大きくなるだけだ。
--参院予算委員会に8月、漁船を停船させる様子を写した新映像が提出された
これまで出せなかった理由が分からない。捜査上の問題や手の内がばれるという声もあったようだが、停船させるための放水などは訓練でも普通にやってることで、とってつけたような言い訳。そもそも誰が隠蔽しているのかわからないことが問題であり、その人物が名乗り出て理由を述べるべきだ。
--尖閣の状況を好転させるためには
尖閣周辺は魚の量も質も良く、好漁場だが、地元漁師としては高い燃料代を使って行っても、中国船に邪魔されるどころか漁具を壊されたりするため採算が合わないのが現状。そのため日本の漁師が尖閣周辺で漁をする機会は減り、取り締まりを受けない中国漁船が増えていた。
極端な言い方をすれば、尖閣は中国漁船が日常的に違法操業する、半ば中国の海と化していた。まず日本漁船の安全を確保して安心して漁ができる環境にすべきだ。
そうなれば、自然と人が集まり、昔は約250人住んでいたわけだから、島に住もうかという人も出てくるかもしれない。地元漁師が安心して漁ができるようにするために、法整備も含めて毅然と対応していけばいい。
--中国以外にも韓国やロシアが震災に乗じて領土問題で攻勢を強めている
韓国が発災直後に竹島のヘリポートの増築工事をスタートさせたり、鬱陵島を視察しようとした日本の国会議員を国際法に違反してまで入国拒否したのがいい例。退去させるなら国際法上理由を告げないといけないが、具体的な理由が全く知らされていない。
露骨でむちゃくちゃなやり方だが、今がチャンスと思っての行動だろう。ロシアにしても領空を脅かすような行動を幾度となく行い、北方領土の実効支配を堅固にしようとの意図を隠そうともしない。あと何年後か、民主党政権が続いている間にやれるだけやっておこうという考えではないだろうか。
機を見るに敏というか、善し悪しは別にして、虎視眈々とやるのは国際関係ではある意味当たり前。日本人はその意識が希薄だ。国民の守るという意識がなければ領土は守れない。
--こうした事態が続けば、「第二の流出」が起きる可能性もある?
政府も今は、情報管理を徹底しているだろう。ただ、もっと言えば、もし尖閣周辺で衝突事件か何かがあった場合、「衝突」の事実すら隠蔽するかもしれない。うがった見方をすれば、もうひっそりと処理されている事件があるかもしれないとすら思ってしまう。
現実に6月末の領空侵犯は2か月間も隠蔽されていたし、F-15戦闘機の墜落事件の真相も明らかにされていない。
政府は(映像流出の後)公務員の守秘 義務について罰則を強化しようとしているが、本末転倒だ。
--今後の尖閣問題について
中国は明確に海洋進出の意志があるのに、政治家や官僚が面倒はいや、先送りの姿勢では何も解決しない。最悪のことを想定しておかなければいけない。領海内に滞在するのが30分だったのが1時間になり、ついには・・・となっていく可能性が高いと思う。
今の状況は口げんかが押し合いになり、殴り合いに発展し、ついには向こうが刃物を出してきているようなもの。領土が脅かされる事態が当たり前になってしまうのが一番怖い。それでは中国の思うつぼだ。
国民は事実を知り、判断するべき。その意味でマスコミの役割は大きい。結局、ツケは国民が払うことになるのだから。主権者である国民は義務を負わねばならないことを忘れてはならない。