【台風12号】自衛官「水没、震災を彷彿」
台風12号がもたらした豪雨で多くの死者や行方不明者を出すなど、甚大な被害を受けた和歌山県那智勝浦町。陸上自衛隊や警察、消防による行方不明者の捜索活動が本格的に始まった5日、町内を取材した。あちこちで家屋が倒壊し、汚泥にまみれて転がる車や倒木などが積み上がる。「那智の滝」や「熊野那智大社」などでも知られる風光明媚(めいび)な景勝地には、猛威を振るった天災のいたましい爪痕がくっきりと残っていた。(永原慎吾)
壁よじ登り救出
「東日本大震災の被災地をほうふつとさせる。想像以上にひどい状況だ」。大阪府和泉市の信太山駐屯地から派遣された自衛官(39)は、町内の惨状に思わずうめいた。町内では、8人の死亡がすでに確認されたほか、寺本真一町長(58)の妻、昌子さん(51)らの安否が分かっていない。
通常、生き埋めになった人々の救命率は、発生から72時間で急激に下がるとされる。自衛隊が活動を開始した同日午前8時には、同町周辺に避難指示が出されてから、すでに30時間近くが経過。この自衛官は「人命救助のため、大切な1日になる。被害状況などが今ひとつ把握しきれていないが、諦めず、捜索を続けたい」と力を込めた。
家屋の倒壊がおびただしい同町井関では、駆けつけた自衛官数人が、2階に取り残され、手を振って助けを求めていた女性(73)を発見。家の壁をよじ登って中へ入り、女性を救出した。救助の直後、女性は「助けてもらうまで、息子たちが外で『もうすぐ助かるから』と励まし続けてくれたので頑張れた」と安堵の表情を浮かべた。
この日、自衛隊は同町など和歌山県を中心に約1100人が展開。陸路のほか、ヘリを使った空路で、道路が寸断され連絡が取れなくなっている同町市野々地区などへ急いだ。
一方、町内の小中学校や親戚の家などで一夜を過ごし、早朝になって自宅のようすを見に来たり、行方がわからなくなっている知り合いを捜す人々の姿もあった。同町井関の神社職員、宮本敬吾さん(38)は、冠水し孤立化した自宅のありさまに声を失った。「たくさんの貴重品を置いて出てきたが、1階は完全に水没し、倒木や車などが突っ込んで、めちゃくちゃな状態」と頭を抱えた。
また、同所の高校1年、井上桃子さん(15)は「学校の吹奏楽部の友達に電話やメールをしたが、ほとんど連絡が取れない。新学期も始まって、練習のまっただ中だったのに。早く、学校でみんなと練習をしたい」と涙ぐんだ。
台風12号の豪雨で自宅2階に取り残されていた女性(73)が自衛隊により救出された
=5日午前、和歌山県那智勝浦町井関(志儀駒貴撮影)
台風12号の被害が大きかった那智勝浦町井関で救出活動が本格化。町は道路標識が倒れ、
電線が地面をはう=5日午前、和歌山県那智勝浦(志儀駒貴撮影)