【松本浩史の政界走り書き】
野田政権の売りが見えない…ほどなく「肉離れ」?
例によって例のごとく、誕生したばかりの政権なので、とりあえず世論は優しい。案の定、報道各社の世論調査によれば、野田佳彦政権にはおおむね6~7割の支持があるという。だが、そんな表向きの華やかさとは裏腹に、とらえどころのないもどかしさや不安感に襲われているのである。そのもとをただせば、内閣の顔ぶれに行き着く。つまるところ、政権の「売り」が一向に見えないのである。
民主党関係者は野田政権の発足に伴い、こんな感想を漏らした。
「『凡人宰相』と評された故小渕恵三元首相のような政権になるのではないか。首相は、実直に仕事をこなすタイプなので、スタートの支持率は低くてもだんだん上がっていくよ」
政権発足当初、3~4割だった小渕政権を思えば、野田政権のそれが上出来であるのは疑いえない。その意味でそっくり小渕政権と同じではないけれど、くだんの関係者が言いたかったのは、首相は小渕氏と同様、我慢強い政権運営でコツコツと実績をつくり、そんな姿勢が世論に支持されれば、安定軌道に入るということだろう。
なにせ「金魚になれないどじょう」を“自負”しているのだから、見てくれなどより、実績がことのほか大切というわけだ。もとより、そのことに文句をさしはさもうという気持ちはいささかもない。
だが、小渕政権には、政権の「売り」があった。
発足当時、金融危機に見舞われていたため、組閣に当たっては、財政・金融のプロとして宮沢喜一元首相を蔵相として招き、金融問題に真正面から立ち向かう政権としての姿勢を内外に示した。
「ねじれ国会」対策としては、武闘派、あるいは寝業師と評された野中広務幹事長代理を官房長官に起用。野中氏は、持ち前の青磁センスを遺憾なく発揮し、自自連立、自自公連立政権の実現にこぎ着け、政権運営を安定化させた。
それを思えば、野田政権の顔ぶれがいかに心許ないか、言わずと知れたことである。「老壮青のバランスに配慮した」「小沢一郎元代表のグループからも起用し、挙党態勢の構築に心を砕いた」「代表選の論功行賞を鮮明にした」…。そんな政界の力学に依って立つ分析などは後回しにしていいのである。
東日本大震災の復旧・復興、円高・デフレ対策、税と社会保障の一体改革、外交の立て直しなど、政治課題は山積している。首相は2日の記者会見で、これらに全力で取り組む覚悟をみせた。
でも、閣僚名簿をながめながら、その人となり、仕事ぶりに思いを致すとき、適材適所の起用がなされたなどとは到底、思えない御仁が並んでいるのである。これでは首相の覚悟も空回りしてしまい、いずれの実現もおぼつかない。
そうは言っても、「日本の顔」になった以上、首相は来年9月までの党代表任期を念頭に、政権運営の行く末について、あれこれと考えをめぐらせていることだろう。
まずは、自らの所信表明演説のほか、平成23年度第3次補正予算案を扱う秋の臨時国会をどう乗り切るのかが、最大のポイントとなる。それというのも、この国会での出来が、来年召集される通常国会の試金石になるからだ。うまくいけば、24年度予算案成立後にも、代表再選が真実味をもって語られるようになるのは請け合いである。
衆院選マニフェスト(政権公約)の見直し検討を明記した自民、公明両党との3党合意を交わした経緯を踏まえ、補正予算の処理が行われるとなれば、マニフェスト堅持を唱える小沢氏の支持グループがどう出るか。また、「ねじれ国会」対策のため、「野田民主党」は、公明党との連携に軸足を移すとの見方もなくはない。
野田氏が第95代の首相に選出されたのは8月30日。その2年前の同じ月日には第45回衆院選が行われ、自民党が野に下り政権交代が実現した。また、野田内閣が発足したのは、菅直人前首相が退陣表明してからちょうど3カ月後の2日だった。
民主党政権になって国政は揺れに揺れ、混迷の度は深まるばかりである。皮肉めいた巡り合わせで節目を迎えた首相には、民主党ばかりでなく、「日本丸」の再生がかかっている。ゆめゆめ、好調の時にこけてしまう民主党のジンクスを皮肉って自ら唱えた「ホップ ステップ 肉離れ」とはならないよう、願うばかりである。