増税は再生の道閉ざす。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【経済が告げる】編集委員・田村秀男

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110823/fnc11082303080000-n1.htm




宮城県の漁港の埠頭(ふとう)付近では、高さ10メートルを超す山が木材、プラスチック、金属別に、築かれている。漁師たちは大津波の難を免れた数少ない漁船を走らせ、底引き網に引っかかった金属の巨大な破片を引き揚げていた。

 漁師たちは政府から日当1万2千円の支給を受け、海底からがれきを回収し、生計を立てているが、「若者が漁業にとどまるのには限界がある。われわれは一日も早く漁で生計を立てる日をめざしている。国で足りないところは自分たちでやり、漁業を復活させる」(宮城県漁協経営管理委員会の菊地伸悦会長)と自立の精神が旺盛だ。

 農村のほうでも、被災農民たちが遊休農地を集約化して再出発を図ろうとしている。「以前の補助金漬けに戻すような復興はだめだ。生産性の高い新たな米作り、イチゴ作りをめざしたい。そうして世界に打って出る」(みやぎ亘理農協の岩佐國男組合長)と、改革の意気が盛んだ。

 独立自尊の精神に燃える彼ら被災地住民を唖然(あぜん)とさせているのは、何とも不透明ながれき処理である。

 東日本大震災で生じたがれきの処理は被災自治体の要請に応じて国が代行する特別措置法が12日、成立した。最終的に費用は全額国負担となる。処理を急ぐ菅直人政権が、地元の見積もりを丸のみした。事業を管轄する環境省には処理コスト・方法を精査した形跡がみられない。民主党政権関係者も「がれき処理をこれ以上遅らせるようだと、地元や世論からたたかれる」と処理計画を査定する気がなかった。

 その結果、処理コストは阪神大震災の場合には、1トン当たり2万2千円だったが、宮城県石巻市で4万円、岩手県の一部では10万円を超す地域もある。「石巻のように、2400億円の処理費のうち1割、240億円を供託金として業者に義務づけているケースもある。これでは大手ゼネコンしか応札できず、競争原理が働かない」と地元関係者はため息をつく。

 カネはいくらかかってもよい、そのプロセスも問わない、処理を急げばよい、というから、モラルハザード(倫理の崩壊)が起きた。その根源は菅政権による安易な「何でも増税」路線にあると思う。巨額の復興予算をまかなうためには復興国債の発行が避けられないが、菅首相は復興国債の償還財源を増税でまかなうとした。国民の「連帯」で復興をめざすという殺し文句で野党や世論に働きかけ、増税で多数の賛同を得られると安心して、被災地自治体の提案を丸のみしたのである。

 不思議なのは、看過した財務省である。巨額の国家予算の財源が国債など借入金でまかなわれるなら、その返済負担が財務省所管の国庫にのしかかるのだから、財務官僚は使命感を持って予算をチェックする。だが、増税なら、国民負担で財源は約束されているのも同然、しかも徴税権を拡大できるのだからかまわない、使途は能天気な政治にまかせておけ、とでも考えたのだろうか。

 東日本大震災からの復興はこれから本格化する。増税ゆえに、だれもがモラルを失い、貴重な国民の所得を無駄遣いする可能性を、がれき処理政策が物語っている。国の世話にできるだけならず、自力による復興をめざす地元の意欲をそぐのだ。増税というイージーマネーは被災地の復旧・復興を台無しにし、日本の再生の道を閉ざしていく。