【from Editor】
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110806/dst11080607350001-n1.htm
東日本大震災による東京電力福島第1原子力発電所事故収束の先行きは不透明で、放射性物質の被害が広がっている。国策として推し進められてきた原子力発電が岐路に立たされていることは否定しようがないが、ただちに「原発はいらない」と言うのも乱暴すぎるのではないか。そんな思いで取り組んだのが、原発が立地するまちの光と影を追った連載「原発のあるまち 黎明(れいめい)-福島・福井」(大阪本社版7月20日朝刊~、東京本社版26日朝刊~)だった。原発をめぐる地元の歴史と現状をリポートし、読者の方々に、「原発」について考えてほしいと思ったからだ。
 5回連載の見出しをあげると、(1)「出稼ぎ もう必要ない」(2)「共存共栄」安全を過信(3)「反対するのはよそ者」(4)交付金…膨らんだ赤字(5)一番のリスクは地元に-となっている。
 連載にも出てくる福井県敦賀市白木地区。トラブル続きの高速増殖炉「もんじゅ」が立地するまちである。もんじゅがナトリウム漏れ事故を起こす4カ月前の平成7年8月、取材に訪れた地区は、初発電を前に静かな高揚感に包まれていた。地区はもんじゅの建屋が目立つ以外は寒漁村だった。住民に話を聞いて歩いたが、漁師だったというお年寄りが「まさにもんじゅさまさま。漁師では食べていけないから、息子ももんじゅの世話になっている」と話していたのを思いだす。
連載でも元敦賀市議が「ムラ(白木地区)の9割は原発関係で働いている。原発がなかったら、ムラの存続はなかった」「事故があるたびに反対運動をするのはよその人。住民は冷静」と話すように、地元では、事故以来ほとんど稼働していないもんじゅへの思いは変わらないといえる。福島第1原発の地元、福島県大熊町と双葉町の住民の多くも「原発が来たら、出稼ぎに行かなくていい」と考えたという。
 もちろん影の部分もある。「電源三法交付金」と呼ばれる“原発マネー”を活用したレジャー施設が毎年赤字を重ねている。地元企業に恩恵がない。日常生活のなかに原発施設が当たり前の風景となっている子供たちが、福島の事故に自分たちのまちの原発を重ねておびえる…。
 しかし、原発のあるまちの住民は影を背負いながらも生きていかなければならない。「リスクが一番あるのは地元なんだ」。福井県の西川一誠知事の言葉は重い。
                          (大阪地方部長 小代みのる)