【正論】帝京大学教授・志方俊之
この9日、アフリカ54番目の独立国、南スーダンが誕生した。国連安全保障理事会は、国づくりを中長期にわたり支援するため、治安維持からインフラ整備まで広範な任務を担う平和維持活動(PKO)部隊、南スーダン・ミッション(UNMISS)の派遣をうたう決議を採択し、12日、国連PKO局がわが国に参加を打診してきた。派遣意思を確かめてから公式要請してくるのだろう。国連はその意思決定を待っているのだ。
東日本大震災に自衛隊が大量動員されたことや、災害復興をめぐり政局が混迷していることを国連が理解してくれていると政府が思っているのなら、甘い。内政と外交は別の頭脳で考えるべきだ。
≪国際社会の動きは待ったなし≫
例えば、23日にバリ島で開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)では南シナ海問題解決、6カ国協議再開へ向けた動きがみられたように、国際社会は待ったなしで動いている。国際会議に参加し資金提供の道筋を考えるだけでは、わが国の発言力は弱まるばかりだ。
わが国の国際貢献への評価は決して低くない。東日本大震災で142カ国・地域、39国際機関が支援の手を差し伸べ、17カ国が援助隊を派遣したことからも、それは明らかだ。第一に、「カネ(ODA)」による貢献だ。「ヒト」による貢献はどうか。ヒトの「質」の高さは群を抜いているものの、「量(人数)」となると、国際比較ではかなり低い水準にある。
PKOへの派遣人員は昨年12月現在で、ブラジル2267人、中国2039人、イタリア1741人、フランス1540人(国連資料)だったのに対し、日本は404人(PKOではないソマリア沖海賊対処活動の約550人は含めない=防衛白書)である。これでは、安保理常任理事国入りなど、“夢のまた夢”ではないのか。
わが国のPKO実績は、2つに大別できる。一つは、アンゴラ、エルサルバドル、コンゴ、ネパールでのように、少人数の文民、警察官、自衛官などの要員を選挙監視、難民救援、連絡調整など限られた任務に短期間、多数の派遣国の一部として派遣する形態だ。もう一つが、カンボジア、モザンビーク、ルワンダ(活動地はザイールとケニア)、東ティモール、現在も続くゴラン高原、ハイチでみられた通り、一定規模の部隊を一定期間、派遣する形態である。
冷戦終結後、とりわけ1991年の湾岸戦争を機に、人的貢献も行う必要に迫られたのが、これらのPKO参加の始まりだった。当時、明石康氏が国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)の特別代表に指名され、「この機を逃しては」との政治的機運が高まったため、「国際平和協力法」を成立させ、施設科部隊のカンボジア派遣(92年)に踏み切った。
≪手枷足枷の「参加五原則」≫
問題はしかし、派遣が自衛隊海外派兵に繋がると警戒する世論を考慮し、歯止め措置として、「参加五原則」なる制約を課すことで同法の成立を急いだ点にある。
これは、カンボジアPKO当時でも派遣部隊の手枷足枷(てかせあしかせ)となっていた。以来、20年も過ぎてPKOの在り方も変遷する中で、一段と現実にそぐわなくなっている。
民主党政権は昨年1月、ハイチ大震災後のインフラ復旧のため、当初派遣した国際緊急援助隊を直ちにPKOに切り替えて迅速に対応した。10月には、「PKOの在り方に関する懇談会(座長・東祥三内閣府副大臣)」を発足させてPKO強化策を検討した結果、この4日に中間報告を発表した。
参加五原則の細部や本隊業務の実施については継続して検討することとしているものの、わが国の国益や外交安保政策との一致、同盟国や価値観を共有する国と国際社会からの評価などに触れ、かなり前向きな内容となっている。
五原則修正は自民党政権ですら先送りしており、今、民主党政権に求めるのは難しいであろう。
≪アフリカとの揺るがぬ紐帯に≫
だが、国連南スーダン・ミッション(UNMISS)参加の意思決定は速やかに行う必要がある。現地の治安情勢は直ちに好転しないとみられるとはいえ、難易度が高かった南スーダン独立前の国連スーダン・ミッション(UNMIS)とは別ものと考えていい。
急ぐ理由は、ほかにもある。
わが国が過去、アフリカPKOを派遣したケースとしては、モザンビークとルワンダがある。いずれも現地で高く評価されたのは、自衛隊の規律・団結・士気の素晴らしさであった。現地の指導者がその秩序に驚嘆して、これに習おうとしたとも伝えられている。
自衛隊がアフリカで好意的に受け入れられた別の要因として軽視できないのが、西欧の一部の国のような旧宗主国ではないうえ、キリスト教やイスラム教などの宗教的背景もないという点である。
UNMISSに自衛隊を派遣することは、わが国が主導する「アフリカ開発会議(TICAD)」とも相まって、将来、わが国とアフリカ諸国を結び付ける揺るぎない紐帯(ちゅうたい)の一つになるであろう。
(しかた としゆき)