【笠原健の信州読解】
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110710/plc11071016010010-n1.htm
航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)の機種選定作業が大詰めを迎えている。レーダーに探知されにくいステルス性能を持つ第5世代戦闘機F35、米海軍の空母艦載機として実績があるFA18戦闘攻撃機、欧州4カ国が共同開発したユーロファイターの3機種が年末の選定に向けて激しい売り込みをかけている。この3機種の中からユーロファイターを推したい。その理由は、ユーロファイターの導入が日本の国防政策に新たな地平線の広がりをもたらすことになるからだ。
日米同盟が重要なのは言うまでもないが…
まず、この問題を論じるにあたって誤解を招かないようにしなければならない。欧州製戦闘機を推すようなことを主張すると、とかくこの日本という国では「あいつは日米同盟の重要性を少しも理解していない」「あいつは反米とはいえないまでも、嫌米主義者なのでは?」といったお決まりの反応が出てくるからだ。
しかし、はっきりさせておきたいが、日米同盟の重要性はちゃんと理解している。集団的自衛権の行使や米国との兵器の共同開発・生産、米軍の駐留経費負担の思い切った増額、「テロとの戦い」や人道問題への対応など米軍が主導する国際紛争処理への自衛隊派遣などを着実に実行に移して日米同盟関係をさらに強化しなければならないと思っている。
日本の国防政策にとって日米同盟は最も重要な柱だということをちゃんと押さえたうえで、ユーロファイターがやはりFXにふさわしいということを言いたいと思う。
空自の生みの親、育ての親は米空軍
そもそも米国空軍は航空自衛隊の生みの親であり、育ての親といってもいい存在だ。戦前、米軍はもちろん日本軍にも独立した空軍はなく旧帝国陸海軍はそれぞれ航空隊を組織していた。
米国は1947年に陸軍航空軍を陸軍から独立させて空軍を創設。航空自衛隊は、一夜にして約10万人が死亡した昭和20年3月10日の東京大空襲など日本への戦略爆撃を指揮したアメリカ陸軍航空軍のカーチス・ルメイらの指導によって昭和29年に発足した。余談だが、カーチス・ルメイは昭和39年に航空自衛隊の戦術指導に貢献があったとして勲一等旭日大綬章を授与されている。
過去の主力戦闘機選定において、欧州製戦闘機が候補に挙がったことはあったが、ことごとく米国製戦闘機が採用されてきた。しかも航空自衛隊は、生みの親の米空軍が採用した機種を導入している。F4は米海軍の空母艦載機として開発されたが、その後、米空軍も採用している。早い話が航空自衛隊にとって欧州製戦闘機は当て馬のような存在だったわけだ。
一時は本命視されていたF35は開発の遅れと経費が予想よりはるかに膨れあがったことから、“苦戦”している。5月に米連邦議会で証言した国防総省幹部はF35の初期運用試験が2017年春までずれ込むとの見通しを明らかにした。このままでは日本側が求めている2017年3月の完成機納入には間に合わない。
ユーロファイター導入を機に欧州と連携を強化
このため、ダークホース的な存在とみられていたFA18が一挙に商戦のトップに躍り出たのではないかという観測が出ている。前述したように過去の主力戦闘機の機種選定においては、なんだかんだ言っても結局は米国製戦闘機が採用されたようにユーロファイターの売り込みはそう簡単にはいかない。政府、防衛省、航空自衛隊などに牢固として存在する「米国信仰」を乗り越える必要があるのだ。
ユーロファイターを推す理由は、日本が21世紀の国防政策を進めるに当たって、欧州諸国を新たな連携相手として選択できるようになるメリットがあるということだ。もちろん、相対的な国際的地位の低下ということがあっても米国が日本にとって最も重要な連携相手だというのは、今後30年近くは変わらないだろう。しかし、「米国オンリー」では日本の外交・安保政策に大きな幅、のりしろは生まれない。欧州という新たなカードをこの機会に握るべきだ。
欧州製戦闘機を導入すると「米国政府や連邦議会が黙っていない」「日米同盟に深刻な影響が出る」などと言った指摘を聞くが、そんなことはない。ユーロファイターを開発・生産したのはNATO加盟国の英国、ドイツ、イタリア、スペインの4カ国で、NATOには米国も加盟しており、4カ国は米国の同盟国だ。中でも英国は米国にとって最も重要な同盟国だとされている。
しかし、ユーロファイターの開発・生産にあたって米英同盟が危機にひんしたとか、NATO諸国間に大きな亀裂が入ったというような話は聞いたことがない。
欧州製戦闘機を導入しても日米同盟は悪化しない
ロシアのスホーイやミグの戦闘機を導入するなら、日米関係に不協和音が生じるだろうが、欧州製、しかもいずれも米国の同盟国である英国、ドイツ、イタリア、スペインが共同開発・生産した戦闘機を日本が採用することに何ら問題はないはずだ。このことで、日米関係に大きなヒビが入るようならば、むしろその方がおかしいのである。
航空自衛隊や防衛省内には欧州製戦闘機を採用した実績がないことから、戦闘機の運用やメンテナンスなどに大きな影響が出るとの声がある。しかし、FA18だって欧州製戦闘機ほどではないにせよ同じような問題に直面する。
航空自衛隊が保有する空中給油機、KC767の給油方法はフライングブーム方式だが、FA18のそれはプローブアンドドローグ方式だ。このため、FA18を導入するとなるとプローブアンドドローグ方式に対応するためKC767の改修が必要になる。
ちなみにイタリア空軍もやはりKC767を保有しているが、こちらの方はフライングブームとプローブアンドドローグの両方の装置を備えている。どうやら、航空自衛隊の念頭には米空軍機はあっても米海軍機のことはなかったようだ。このことは、航空自衛隊がいかに米空軍に偏重してきたことを示す一つの証左だといえよう。
ユーロファイターは真のマルチロールファイター
ユーロファイターの性能はもちろん優れている。F22やF35のようなステルス戦闘機ではないが、レーダー反射面積低減性能はF35に次ぐものがあり、アフターバーナーなしでスーパークルーズが可能だ。また対地攻撃、空対空戦闘、対艦攻撃などあらゆる任務に就くことができるマルチロールファイターだ。機外の搭載ステーションは13カ所あり、精密誘導兵器と空対空ミサイルを同時に搭載して発射することができる。
日本への売り込みを主に担当している英国のBAEシステムズは、日本がユーロファイターを導入する際にはライセンス生産を認める考えを表明している。F2の生産終了を受けて日本国内の防衛産業、とくに戦闘機メーカーは衰退の危機が指摘されているが、ユーロファイターのライセンス生産が行われたら、日本の防衛産業の強化にもつながる。
しかもBAEシステムズはブラックボックスを設けない方針を示しており、日本国産の電子機器搭載や日本独自の誘導弾への対応も可能だとしている。
BAEシステムズはユーロファイターの日本語サイトを開設した。このことはBAEシステムズのユーロファイター売り込みにかける本気度を示すものだ。ユーロファイターが日本の空を飛ぶ日をこの目でみたいものだ。その時こそ、米国一辺倒だった日本の国防政策が新たな歩みを見せたときだといえるだろう。
(長野支局長 笠原健)
欧州4カ国が共同開発したユーロファイター(英BAEシステムズ社提供、共同)
FA18
ステルス戦闘機F35
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個人的には、空母艦載機のFA18も捨てがたい。
海上自衛隊は事実上、空母を保有しているからだ。
空自がユーロファイターを、
海自がFA18を購入することはできないのか・・・。


