(6月24日付、当ブログのつづきです)
「どど、どうしたんですか、その格好は!?」官邸に呼び出された枝野は、防弾服に身を固めた菅総理を一目見てのけぞった。「まま、まるでゴ、ゴ、ゴキ・・・」見れば見るほどゴキブリ野郎だ。噴き出しそうになった枝野は慌てて笑いを噛み殺した。
「特注の防弾服なんだ。見栄えが悪くとも仕方がない」不機嫌な声で菅が応える。ふと枝野を見れば、必死に笑いを抑えて福耳 がたぷたぷ揺れている。顔面が紅潮し全身がぷるぷる震えている。
「笑っている場合じゃないぞ」菅はますます不機嫌になった。「首相たるもの、いつ撃ち殺されるか、わからんのだ。」
「考えてもみろ」と菅は続ける。「震災の復興は何も出来ていない。原発事故を不必要に混乱させた。経済はガタガタだ。そのうえ、電力不足で猛暑だ。これじゃ国民が怒り狂うのも無理はない。普通の国なら暴動が起きてるだろう。悪いのはこの俺だ。」意外にも冷静に状況を理解していた。
「でも殺されたくはない。お前は知らんだろうが、背中の甲羅状の羽は如何なる弾丸も通さないんだぞ。」ここまで語ると、さっと腹ばいの体勢になって頑丈な背を見せた。
あ、ゴ、ゴ、ゴキ・・・と、また、枝野が笑いを噛み殺して身をよじり出した。駄目だ、これじゃこっちが殺される。笑い死にしそうだ。ううう、くくくく。
床に這った状態のまま、菅が云う。
「ところで、今日、お前に来てもらったのは他でもない。実はこの官邸に住むわけにはいかんので、庭に仮設住宅 を建てて欲しい」
何事かといぶかる枝野に菅が説明する。
「伸子はこの防護服が嫌いなのだ。ってゆーか、ゴキブリが嫌いなんだな。顔もみたくない、出て行けと云うのだ。」だからと云って、首相官邸から首相が出て、夫人だけ住まわせるのもヘンだ。だから、庭に自分専用の家屋を建てろとのリクエストだった。
「わかりました」枝野はぼそりと答えると部屋を出た。後ろ手に扉を閉めた途端、涙を流して狂ったように笑い転げた。
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翌朝、寝起きの菅に枝野の顔が近づいた。「建てました」
「えっ、朝から立つって、そんな元気はもう・・・」寝ぼけ眼の菅は何か勘違いしている。
「違います。仮設住宅 です」枝野の一言で昨日の会話を思い出す。
「ええええっ、もう出来たのか!」と菅。
「工場からパネルを運び、現地で組み立てるだけですから。土地さえあれば簡単な話です。」と枝野。
「仮設住宅 ってそんなに簡単に出来るのか」それなら被災地でなぜ早期対応しなかったのだ、超法規的に一時的に土地を確保すればよかったではないかと、反省の念が胸をよぎる。が、次の瞬間に思うのだ。ま、いっか。「よし、では引越しだ」
「こちらです」枝野に案内されて広い裏庭に出てみると、確かに貨物用コンテナ状の建物がある。
「おい、あれが俺の仮設住宅 なのか」菅が指差して尋ねる。枝野が無言で頷く。
「いや、どこかで見たような」と、気が進まぬ様子の菅。それでも枝野に促され、仮設住宅 を目指して、庭の芝生を匍匐前進する。
カサコソカサコソ カサコソカサコソ
ようやくドアの前まで辿り着いた菅は、一瞬躊躇したものの、そそくさと入室する。と数秒後、案の定、大きな悲鳴をあげた。「おーい、おーい、助けてくれ!助けてくれ!」
どうしました、と駆け寄る枝野。
「おい、この建物、床が粘着剤だらけだ。だだ駄目だ。これじゃ死んでしまう。助けてくれ」手足を床にとられたまま、菅が泣き声になっている。
「総理、心配ありません。所詮、粘着剤など」枝野は落ち着き払った様子でゆっくりと語り出した。
「ただちに健康に影響を与えるものではない」
