サッカーの日本代表として、今やなくてはならない存在になった、イタリアのインテル・ミラノ所属の長友佑都選手は、「太鼓の名手」としても知られている。子供のころ習っていた和太鼓の腕が役立ったのは、明治大学時代だ。当時は選手としてより、スタンドで応援団に交じってたたく、太鼓のリズムの方が評判だったそうだ。
▼世界に太鼓は数多くあれど、大きさや音の迫力で和太鼓は群を抜いている。それは、日本が地震・火山国であることと関係があるのではないか。評論家の片山杜秀さんが、コラム集『ゴジラと日の丸』(文芸春秋)のなかで書いている。
▼確かに和太鼓の響きは、火山や地震に伴う地鳴りを連想させる。江戸時代の書物などによれば、昔の日本人は、地下に埋まった巨大な太鼓を鬼が下から打ったせいで、地震が起きると考えたらしい。「とすればその力を鎮めるには太鼓を逆側から叩(たた)き鬼だかをへこませるのが一番だろう」と、片山さんはいう。
▼梅雨入りした東北各地では、例年なら今ごろ夏祭りの準備に忙しく、太鼓を打ち鳴らす姿が各地で見られたはずだ。東日本大震災による津波は、祭りの大切な担い手を奪い、太鼓を押し流した。
▼それでも関係者は、がれきの下から太鼓を見つけ出し、開催をめざしている。今年の太鼓は、地中に住む鬼をへこますためにたたくのではない。震災で亡くなった仲間の魂を鎮め、復興に向けて力強く前進するために、生き残った人々の心を鼓舞することが最大の目的だ。
▼その響きにはまた、強い怒りも込められている。言うまでもなく、菅直人首相の姑息(こそく)な延命策に振り回されて、被災者そっちのけで迷走を続ける、政治に対してである。