次世代GPS「準天頂衛星」
30兆円ビジネス狙い、月内に官民研究会
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110620/biz11062001000000-n1.htm
政府がGPS(衛星利用測位システム)の次世代サービスに関し、官民連携で衛星利用ビジネスの拡大を図る新産業育成の研究会を月内に立ち上げることが19日、明らかになった。ホンダや三菱電機など国内企業10社が参加する。7月をめどに日本の次世代GPSを担う準天頂衛星の2号機以降の打ち上げを決定し、国内10兆円の産業創造とともに、30兆円規模のアジア市場を取り込み、成長戦略につなげる。また、東日本大震災の被害把握が遅れた反省から、新たに打ち上げる準天頂衛星には災害対応機能を搭載し、防災衛星として応用する方針だ。
(上原すみ子)
■月内に立ち上げ
経済産業省が月内に立ち上げる研究会には、ホンダ、三菱電機のほか、JR北海道、三菱重工業、NEC、コマツなど計10社が参加し、国内でのサービス開発に加え、アジア向けのシステム輸出を検討する。
政府は7月にも、実験機の準天頂衛星1号機に続く2号機以降の打ち上げを決定、平成24年度の概算要求に整備費の一部を盛り込む方針。政府は日本で自前の衛星システム整備ができれば鉄道や航空、資源開発、農業、課金などでの活用が一気に広がり、国内で10兆円規模の新しい産業分野が創出できると試算する。
次世代サービスは、GPSの精度が従来の10メートルの誤差から1メートル~数センチへと10倍以上改善し、こうした技術を背景に民間の衛星利用ビジネスが加速する。
自動車にGPSアンテナやカメラを付けるモバイル・マッピング・システム(MMS)と呼ばれる計測システムは、道路を走行しながら連続撮影で3次元地図を作ることができる。カーナビゲーションの高度化はもちろん、自動車や列車の衝突防止にも役立つ。農業分野でも、水や肥料を散布する農業機械の遠隔操作ができる自動制御システムなどが開発されている。
三菱重工業も、国産ジェットのMRJ(三菱リージョナルジェット)向けに次世代GPSを利用した航行システムの開発に取り組んでおり、アジア市場で激しさを増す受注合戦で、競合他社との差別化を狙う。
■防災機能も搭載
一方、政府は準天頂衛星2号機からは携帯電話の中継器を搭載し、地上の基地局が被害を受けても、災害用伝言サービスなどを衛星が直接受信し、安否確認ができるようにする。こうした情報を行政の災害対策拠点などにも送り、リアルタイムの被害把握や救助活動につなげる。
計測システムのMMSは地殻が変動しても元の位置をすぐに特定でき、復興支援に有効なほか、複数の衛星打ち上げによる信頼性の高い測位で、有視界飛行が義務付けられているヘリコプターの夜間運航も可能になるという。
次世代GPSは、中国が衛星打ち上げで先行する。37年にはアジアで30兆円の巨大市場が見込まれるだけに、技術力を武器にシステム輸出を拡大し、国際標準化に先手を打つ考え。衛星打ち上げや運用の費用負担をめぐり、民間資金をどう呼び込むかが課題になる。
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準天頂衛星 昨年9月に日本が1号機を打ち上げたGPS(衛星利用測位システム)衛星で、衛星からの電波で地上にいる人や車の位置、地形を測定できる。米GPSと組み合わせることで、これまで10メートルあった誤差が1メートル~数センチになり、精度が飛躍的に高まる。日本列島のほぼ天頂(真上)を8の字を描く軌道でオーストラリア大陸の上空まで通過し、東アジアをカバーする。1号機「みちびき」は日本国内を1日8時間しか測定できず、24時間の測定には最低4機、精度の高い運用のためには7機が必要とされる。