もしドラッカーが生きていたら、さぞ喜んだことだろう。弱小野球部の女子マネジャーが、彼の著書「マネジメント」を参考にして甲子園出場を勝ち取った、という小説が大ヒットし、アニメや映画にまでなったのだから。
▼現代経営学の父と呼ばれたドラッカーを一見、何の関わりもない女子高生と野球に結びつけた原作者の目の付けどころに感心するが、野球とドラッカーは意外とよくあう。メジャーリーグでも活躍した元オリックスの長谷川滋利氏も愛読者だし、「マネジメント」を体現したような人物もいる。
▼うまくいっている組織には、人付き合いが悪く気難しいわがままなボスが必ずいる、とドラッカーは書いている。一流の仕事を部下に要求し、自らにも要求する。何が正しいかだけを考え、誰が正しいかを考えないボスこそがマネジャーとしてふさわしい、と。
▼この条件に当てはまるのが、中日の落合博満監督だ。昔から変わり者で、監督就任後は番記者とろくに口もきかない。人気も今ひとつだが、在任7年で4度も日本シリーズに駒を進めた。セーブのプロ野球新記録をつくった岩瀬仁紀投手へのコメントもふるっている。
▼「どれだけ投げても大ブーイングされたことを糧にしてきた。みんなを見返してやりたいってことなんだと思う」。部下の心情に仮託した「オレ流」の心の叫びを聞いた気がする。
▼首相官邸にも気難しくわがままなボスがいる。国民の大ブーイングを糧に見返してやろうという意欲満々である。ただし、落合監督にあって彼にないものがある。ドラッカーが、不可欠な資質としてあげた「真摯(しんし)さ」である。「ペテン師」はマネジャーにも首相にもなってはいけない。