【探訪 防人の風景2011】
「ここで育った 紛れもない故郷」
手提げ袋を両手に持ち、家路を急ぐ少女。道の先には廃虚と化した工場や倒れかけた家屋が見える。ビザなし交流団の一員として訪ねた北方領土の色丹島は、寒々とした雰囲気に包まれていた。
面積253平方キロ、周囲約150キロ、人口約3100人の小さな島だ。ほとんどの人が漁業に従事している。“箱庭”と形容される島のあちこちで牛が草をはんでいた。
「コンニチハ」と駆け寄りカメラの前でポーズをとる子供たち。交流の一環として案内された家庭には、日本のガイドブックやアニメキャラクターがあった。病院には桃太郎のイラストが、学校では「友情」の文字にも出くわした。
ロシア政府は2005年、経済社会発展計画「クリル発展プログラム」を施行したが、色丹島のロシア人は「成果はふたつだけ」とそっけない。ひとつは穴澗(あなま)地区と斜古丹(しゃこたん)地区を結ぶ、約7キロの主要道路などが砂利で整備されたこと。もうひとつは今年3月の幼稚園新設だという。
子育て環境を整備し、ロシア側の実効支配をより鮮明に印象付ける狙いがあるともみられる。だが、国後(くなしり)、択捉(えとろふ)両島と比べ、インフラ整備が十分とはいえないのが現状だ。
それでも、女子生徒のアナスタシアさん(14)は「自分の生まれた島が大好き。進学で離れても必ず戻ってくる」という。
今回の交流団長で元色丹島民の得能(とくのう)宏さん(77)は「ここで生まれ、13歳で強制退去させられるまで育った。紛れもない故郷。日本ならばもっと美しい島にできた…」と悔しさをにじませる。
自分と同世代の時に故郷を追われた日本人の思いを、島で生まれ育ったロシアの若者が耳にしたことはあるのだろうか。
(写真報道局 鈴木健児)
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学校帰りの少女の向こうに廃墟になった工場や倒れかけた住宅が並ぶ=色丹島・穴澗
“箱庭”といわれる島内にはカラフルな家が並び、そこかしこで牛が草をはんでいた