総合力で強み、日系電子部品。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【日曜経済講座】経済本部長・谷口正晃





世界の製造業の命運握る


 東日本大震災で電子部品工場が被災し、自動車やデジタル家電などの生産が世界中で停滞。日本の電子部品の実力が再認識された。世界の製造業の命運を握る日本の電子部品とはどのような種類があるのか。また、なぜライバルの追随を許さないのだろうか。

 ◆「ノイズ除去」に強み

 日系メーカーが高いシェアを握る電子部品の一つにノイズ除去などに使うインダクター(コイル)がある。原理は小学校の時に作った電磁石だ。

 導線を巻いたコイルに電流を流すと磁力線が発生し、コイルに磁石を出し入れすると電流を生む。この性質を利用したのがインダクターだ。エンジンの回転、トランジスタのスイッチングなどで発生し誤作動の原因となるノイズを除去する。必要な信号だけを通し、電圧を安定させる働きもする。携帯電話、テレビ、パソコンなど多機能化する製品にはなくてはならない。

 中でも自動車向けは高い性能が求められる。1980年代以降に電子化が進んだ自動車は、エンジン、ブレーキ、サスペンションなどが電子制御となり、カーナビや各種センサーも加わり、電子部品の塊だ。電気ノイズで誤作動すれば重大事故につながる。

 自動車用のインダクターは1台当たり数十個が使われている。耐衝撃性、耐水性、耐熱性も求められる高機能部品となっており、ライバルの追随を許さない。

◆シェア100%の部品も

 電子部品業界における日系企業の地位はどうだろうか。

 電子情報技術産業協会(JEITA)によれば、2011年における世界の電子部品の生産見通しは前年比7%増の19兆5914億円。このうち日系の比率は38・8%だ。

 しかし、部品によってそのシェアは大きく異なる。スイッチやコネクター、プラグなどの接続部品は中国、台湾、韓国勢の追い上げが著しく日系のシェアは27%にとどまるが、カスタム品や高機能部品になると事情が変わる。小型モーター、スピーカー、チューナーなどの変換部品の日系比率は76%、抵抗器、コンデンサー、インダクターなどの受動部品も50%が日系だ。

 さらに細分化すると圧倒的な分野が見いだせる。前述のノイズ除去用インダクターのコモンモードフィルターもその一つで、テレビやパソコン、デジカメなどのAV機器向けシェアが95%、携帯電話やスマートフォン向けも95%、自動車関連機器に至ってはほぼ100%のシェアを持つ。

 自動車用のコモンモードフィルターは世界の大手自動車メーカーが採用する。しかし、生産拠点は日本と欧州の2カ所のみ。不幸にしてどちらかの生産拠点が被災するようなことがあれば、影響は深刻だ。日系メーカーが世界の自動車産業を支えるといっても過言ではない。

◆製造ノウハウの塊

 自動車用コモンモードフィルターは「構造なら誰でも知っている」という。では、なにゆえ追随を許さないのだろうか。

 防波堤は「製造ノウハウ」だ。原料を素材に加工するだけでも多くのノウハウがある。コモンモードフィルターはフェライトという磁性材料に導線を巻くが、酸化鉄を主成分とする粉末原料を電炉で焼いて作るフェライト製造に長年のノウハウの蓄積がある。この分野に強いTDKによれば、「原料に何をどれくらい、どのタイミングで混ぜるのか、焼く時間と温度、焼成炉の酸素濃度など簡単にはまねできない」という。

 部品の優位性は企業が買収されても維持される場合もある。ハードディスクドライブ(HDD)業界では3、4月に米国勢による買収が続いたが、スピンドルモーター、磁気ディスク、ヘッド、ボールベアリング、板バネなどの基幹部品はほぼ全量を日系が握っており、一つでもなくなれば年間生産6億台という世界の生産に影響を及ぼす。

 製造ノウハウがモノを言うのはここでも同様で、板バネ一つとっても、加工だけで一冊の本が書けるほどという。バネの形状は目に見えるが、要求に応える性能を持たせることは極めて困難だ。

特許、製造ノウハウ、独自の製造装置などで守られる日系の電子部品だが弱点はある。人材流出だ。数千億円を投じて開発した半導体、液晶などの製造ノウハウも、人材引き抜きでライバル国での製造が可能になってしまった。

 防止には技術者の待遇改善や定年制の見直しなどが必要だろう。ただ、日本がトップであり続けるためには、技術開発の手を緩めてはならない。小型化、薄型化のほか、省エネルギー、蓄エネ技術の開発を強化し、医療電子機器や電気自動車などの新規分野への進出を加速させるなど、先行メリットは守り抜かねばならない。




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