【名言か迷言か】
「なーにが、なんだかわからないのよ」という、歌詞で始まる歌がある。
昭和41年に公開された映画「日本一のゴリガン男」という映画の主題歌だったハナ肇とクレイジーキャッツの「何が何だかわからないのよ」と、タイトルが歌詞そのままの歌だ。
脱力系の曲に乗せて、給料が増えたら買い物が増えたとか、買い物が増えたら借金が増えたとか、薬を飲みながら大酒飲むとか、世の中の矛盾を並び立てる。
そこで、菅政権である。東京電力福島第1原発事故をめぐる海水注入問題は、まさに「何が何だかわからない」のだ。
少しおさらいをしてみる。
3月12日午後7時すぎに東電が第1原発1号機に海水注入を始めたところ、菅直人首相が「聞いていない」と激怒して中断した、との情報が20日に流れた。すると政府は21日、再臨界の危険性を検討したところ原子力安全委員会の班目春樹委員長が「危険性がある」と言ったからと、責任を押しつけた。
22日に班目氏が抗議すると、政府は「可能性はゼロではない」と同氏が発言したことに訂正。首相は23日の衆院東日本大震災復興特別委員会で「(注入の)報告はなかった。報告が上がってないものを『止めろ』というはずがない。私が止めたことは全くない!」と関与を否定した。
首相はその翌日、主要国(G8)首脳会議開催地の仏ドービルに向けて旅立っていった。
ところが東電が26日、「実際には注入は中断していなかった」と発表したのだ。東電本店は中断を指示したが、現場の判断で継続していたそうだ。結果オーライだったから、いいという話ではないだろう。
中断していなければ、首相が止めろというはずもない。首相の発言を裏付けるために、官邸が東電に圧力をかけたのではないか、と勘ぐる向きがあっても不思議ではない。
この東電の発表に「中断がなかったのなら、私はいったい何だったのか。いったい何がどうなってるのか教えてほしい」と班目氏は不信感をあらわにしたという。
班目氏でなくても、教えてほしい。会議録がないとかなんとか理由をつけて、官邸は本当のところを明らかにしたがらない。この大騒ぎは何だったのか。何が何だかわからないのだ。
一つだけわかったのは、菅政権の大震災や原発事故への対応は、やっぱり「うさん臭い」ということだ。「知られちゃ困ることは隠しておこう。気づかれるまで黙っておこう。都合が悪かったら、誰かのせいにしちゃえ」という体質だ。
さて、植木等の歌うこの歌は矛盾にあふれた世の中を、「ぐずぐず言っても始まらないね」と前向きに開き直り、「ゴリガン一発生き抜こう」と力強く歌い上げる。ゴリガンとはごり押しでガンガン行こうということだそうだ。
開き直るのは首相の得意技だ。支持率が低迷しようが、震災対応が悪いと言われようが、民主党内から「菅降ろし」が進もうが、お構いなし。強弁で押し通し、ゴリガン一発生き抜いている。
ただ、生き抜かなくてはいけないのは、首相自身ではないのだ。国難に直面している、この日本という国である。サミット帰りの首相が、そのことに気づいているか。あまり期待はできないが…。(小島優)
◇…先週の永田町語録…◇
(23日)
▽世界でも重要
菅直人首相 化石燃料と原子力の二つの柱に加え、自然エネルギー、省エネを進めることが、わが国だけでなく世界にとっても重要だ。(主要国首脳会議での発信内容について衆院東日本大震災復興特別委員会で)
▽信頼喪失
谷垣禎一自民党総裁 正直に事実を出しているのか、かなり疑問が生じているから流言飛語が飛び交う。信頼感の喪失がある。(福島第1原発事故をめぐる政府の情報開示について記者団に)
(24日)
▽げっぷ出るほど
仙谷由人官房副長官 果たして執行能力があるのか心配だ。げっぷが出るほど予算をつけても、来年に積み残したというおかしな話になりかねない。(平成23年度第2次補正予算案の早期編成について記者会見で)
▽コイが包丁
小池百合子自民党総務会長 菅直人首相が失敗の本質そのものだ。まな板に載っているコイが包丁を持つことは、全く意味がない。(原発の事故調査・検証委員会設置について記者会見で)
(25日)
▽切るべきは切る
亀井静香国民新党代表 首相は切るべきものをすぱっと切り、切ってはならない人たちの協力は徹底的に求めるべきだ。(原子力安全委員会の班目春樹委員長更迭を主張し党議員総会で)
▽ついていく馬も
谷垣禎一自民党総裁 急流で馬を乗り換えるなというが、菅直人首相は上に乗った総大将。総大将が方向を間違って突っ走れば、ついていく馬も別の方向に行ってしまう。(党本部での会合で政権運営を批判し)
(27日)
▽教えて
輿石東民主党参院議員会長 「考えてほしくない」と言っても提出するかもしれないし、「出してください」と言っても出さない場合もある。動きがあるなら教えてください。(内閣不信任決議案について記者会見で)
▽東条内閣末期
谷垣禎一自民党総裁 「このままでは何ともならん」と思っている人が「何か道はないか」と模索している。東条内閣末期のような状況だ。(超党派議連乱立について記者会見で)
(27日)
▽慌てて報告
枝野幸男官房長官 (原発事故から)既に2カ月以上。注水がさまざまな問題になり、慌てて報告してきたとしか受け取れない。(東京電力のモニタリングデータ未公表について記者会見で)
▽恥さらし
渡辺喜美みんなの党代表 菅直人首相が主要国首脳会議へ行っている間に、恥さらしの話だ。日本の大混乱を見て国際風評被害はしばらく収まらない。(原発事故をめぐる情報混乱に関し記者会見で)