【日々是世界】中国空母
著しい中国の軍事的膨張が注視されているが、将来中国の国内総生産(GDP)が米国を超えても、米国に取って代わって中国がアジアに「覇」を唱える可能性はほとんどない。しかし、“米空母キラー”と呼ばれる対艦弾道ミサイル「東風21D」(射程1800~2800キロメートル)の配備など米軍に対する「接近拒否」戦略は、米国の利益と間違いなく衝突するものだ。中国の航空母艦保有の意味を探る。(SANKEI EXPRESS)
熟成された世論
国営新華社通信は今月10日の配信記事で、「大型水上艦」「新型潜水艦」などの配備に向けて数千人の人材育成が終了したと発表した。「大型水上艦」に空母を含めているか不明であり、これがただちに空母就役を意味するものでもないが、艦艇の将官育成に力を入れてきた自信がうかがえる。
世論も熟成された。5日付の環球時報によると、中国主要7都市で4月から5月にかけて実施した空母に関する世論調査で、8割以上が「中国の軍事力を高める」として賛意を示している。
空母配備で「国土防衛に力を発揮する」も8割。中国の一部軍事専門家は、中国で空母建造には、空母本体で20億ドル(約1630億円)超、艦隊全体で約200億ドル、年間維持費は15億ドル超と試算しているが、「建造と維持費に費用をかけても価値がある」とする回答は7割を占めており、建造・配備は世論の支持の上に立つ。
国際先駆導報(4月14日、電子版)も「中国初の空母誕生記」との見出しで国民の期待感を高める。
3~5年で完成
「国産空母の完成は3~5年以内」「理想は3~6隻を建造」。中国系の香港商報(4月9日付)は、総参謀部元高官の話としてこう伝えた。1998年にウクライナから購入した未完成の中型空母「ワリャーグ」は大連で修理中だが、台湾の中央通信社によると、すでに基本構造は完成、対空ミサイルの垂直発射装置(VLS)を備え、弾道ミサイル128基などが装備されたという。早ければ年内に訓練用空母として試験航海する可能性がある。
ワリャーグとあわせ、5万~6万トン級の2隻の中型空母を2015年を目標に上海の長興島(ちょうこうとう)で建造。ロシア製戦闘機そっくりの艦載機を導入するとみられている。艦載機の決定は最終段階に入っており、機種選定については軍事サイトが大きく取り上げている。
中国は2000年ごろに空母建造に向けた専門組織「048弁公室」を設置、08年からは艦載機パイロットの訓練を始めた。現在、関係者の関心は空母本体の建造に向いている。専門家は、長興島にサッカー場が建設されたことを指摘。これは空母建造を支援するウクライナ人技術者用の施設とみられるという。
空母運用には、衛星情報を元にし、戦闘機、早期空中警戒機、給油機の運用、潜水艦、駆逐艦による一体運用が必要となるが、日本の軍事専門家の間では「建造から10年先になるのか否かは不明だが、いずれ中国は空母の運用をまがりなりにも可能にするはずだ」と指摘する声が多い。
パワーバランスに変化
中国の空母配備は台湾攻撃ではなく、台湾周辺を含む西太平洋、南シナ海、インド洋、東シナ海でのパワーバランスを変化させることに主眼がある。
焦点は、中国が空母群をどう運用するか、それに対し米国がどう対処するかに尽きる。尖閣(せんかく)諸島を含む東シナ海で訓練するのか、各国と領有権を争う南シナ海を示威航行するのか、西太平洋やインド洋にも航行させ、各国はどう反応するか-。これらの意味は決して小さくない。
米中は、経済的に深い関係を持ち、依存関係にある。双方に事を荒立てる気がないことを考えれば、米中戦争のシナリオの可能性は極めて低い。
新華社(電子版)は5月4日、「中国軍の戦闘能力向上はアジア各国への脅威となっている」「米国は長期的な戦略の再考が必要」「しかし中国の戦略意図について米国内の分析は一致していない」とする米軍事専門誌を引用し、米中のせめぎ合いを示唆した。
中国の軍関係者はこう展望している。
「将来、米中双方が勢力圏を守るために、他の周辺国とどう連携し、均衡を保つか、または均衡が破れるのか。中国の空母がその均衡にもたらす影響は小さくないと私は思う。いずれにしろ、米国は中国が軍事強国の地位に就くことを受け入れるべきだ」
(国際アナリスト EX)
【国際情勢分析】大連のドックで完成間近いワリャーグ。外観は白く塗装され、レーダーなどが設置されているのがみえる。エンジンはウクライナ製とみられ、中国はオリジナルの船体構造図を入手し修復したとされる=4月17日、中国遼寧省(ロイター)