言葉だけが躍る未来志向。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 







【from Editor】



岡崎久彦氏の近著「明治の外交力-陸奥宗光の『蹇蹇(けんけん)録』に学ぶ」(海竜社)は、国家の危機に直面したときの政治家のあり方を示している。

 当時の宰相、伊藤博文は日清戦争の講和条約締結交渉に先立って記した上奏文で、欧州列強による「三国干渉」を事前に予想し、閣僚らに対し結束して臨むことを訴えた。

 岡崎氏は、「伊藤という人は、単に円転滑脱の周旋屋のように思われているが、問題を整理して本質を抉(えぐ)り出す能力には天才的なものがある。よほど物事の大小軽重がよく見えていた人なのであろう」と評価している。

 この本を読んでいたころ、衆院では「朝鮮王室儀軌(ぎき)」などの図書を韓国に引き渡す日韓図書協定が通過した。自民党は韓国にある日本由来の貴重な図書の引き渡しを求めない菅直人政権の方針に「片務的すぎる」と反対した。政権側は批判を受け図書の閲覧の便利性向上などに努める方針を示したものの、対応は後手に回っている。

 「外務省は外交摩擦を恐れている。(協定批准にあたって日本側が強調する)『未来志向』は、摩擦を起こさない観点から、将来に向かってどうしましょうかという話を話題にするように見える」

 4月27日の衆院外務委員会で、協定に賛成しつつもこう疑問を投げかけたのは公明党の赤松正雄氏だ。

祖母が伊藤の孫にあたる松本剛明外相は「つい一番難しい問題を避けて通ることは、人間のやることとしてないわけではないが、そういうことのないようしっかり取り組みたい」と答えた。

 松本外相が言葉通りの行動をとることを期待したいが、民主党政権下では昨年秋の尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件など、日本の国益が問われる事件が相次いだ。中国の軍備増強などアジアが再び帝国主義の時代に戻ったとも言われるなかで、赤松氏が言うように「未来志向だとか戦略的互恵なんていう言葉だけが躍る、実際中身は伴わない、こういう事態ではしようがない」といえる。

 3月11日に起きた東日本大震災と原発事故で、われわれは未曽有の国難に直面している。伊藤と外相だった陸奥は岡崎氏が指摘するように、帝国主義の世界のなかで「国際情勢判断を誤らず日本の生存を全うした」。テレビドラマではないが、いまの日本に伊藤や陸奥が逆にタイムスリップしてきたら、どうしただろうかと思ってしまう。

                                   (副編集長 有元隆志)