【海外事件簿】
シー・シェパードが動きを活発化
今期の南極海の調査捕鯨を中止させた米国の反捕鯨団体、シー・シェパード(SS)が次なる標的に向けて、動きを活発化させている。代表のポール・ワトソン容疑者(60)=傷害容疑などで国際指名手配=は米国内での資金集めパーティーや講演会に頻繁に出席し、SSをPR。SSは南太平洋の島国、パラオの密漁取り締まりへの参入を目指しているほか、地中海のクロマグロ漁やデンマーク・フェロー諸島のイルカ漁への妨害準備も着々と進めている。
4月16日、米西海岸ロサンゼルスで開かれた環境保護関連のイベント。ゲストに招待されたワトソン代表は盛大な拍手を浴びて壇上に登場し、基調講演を行った。2月まで行われた調査捕鯨妨害キャンペーンを話のネタにして聴衆を引きつけ、「私たちは、人を決して傷つけない」とするSSの活動方針や自らの理念を語った。
「私たちが(日本の船団へ)やっていることは、攻撃的な非暴力なんだよ」
講演終了後、ワトソン代表はTシャツや関連本などを販売するSSのブースに顔を出し、駆けつけたファンとの写真撮影やサインの求めにも応じた。報道陣の取材も受け、「最近の震災をふまえ、日本は景気浮揚のために捕鯨に対してより積極的になると思いませんか?」と質問した記者にはこう返した。
「震災が、彼らを捕鯨に向かわせるとは思わないね。それは失敗する選択で、利益には結びつけない。でも、もし彼らが捕鯨をするんだったら、われわれは(妨害の)準備をするよ。私は、震災によって彼らが違法な漁業に向かうと考えているんだ」
毎年、ワトソン代表は捕鯨妨害キャンペーン終了直後の関心が高い時期を狙って、団体本部のある米国へ戻り、各種イベントに頻繁に参加している。会場はSSの支持者らで満員となり、高額の寄付も集まるようだ。そして、同じくこの時期に、米有料チャンネル「アニマル・プラネット」で続いているSSの宣伝番組「鯨戦争」が放映されるにあたって、積極的にTV出演もこなす。
第4作目となる今年は、6月3日に放送開始が決定した。調査捕鯨キャンペーンの実態を一方的に映し出し、反日色が濃い「鯨戦争」は同チャンネルが歴代2位の高視聴率を誇る人気番組となっているが、今後は、ワトソン代表や他主要メンバーの各メディアへの露出回数もさらに増えていくとみられる。
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一方、調査捕鯨妨害キャンペーンに参加した3隻の抗議船はそれぞれ、オーストラリアなどでドック入りして修理を施した後、次なる活動場所への移動を始めている。
オランダ船籍のスティーブ・アーウィン号、豪州船籍のゴジラ号は欧州海域を目指している。昨年夏にも行われた地中海のクロマグロ漁への妨害活動のためで、ワトソン代表は「船を北アフリカのリビア沖へ派遣させる」と明言した。
昨年7月には、マルタの漁師が捕獲したクロマグロを囲ったいけす網を、「密漁だ」と一方的に宣言して切り刻み、クロマグロを海洋に逃して、数千万円規模の被害を与えた。
今年も、ワトソン代表は、「絶滅の危機にあるクロマグロを日本の商社が大量に倉庫に保管している」などと主張し、地中海の漁師の「違法な漁を取り締まる」としている。
しかし、今年は、英仏などの連合軍がリビア政府軍と交戦しており、地中海で例年通りの漁が行われるかは未知数な状況だ。
北大西洋に浮かぶデンマーク領のフェロー諸島では、毎年夏、伝統的なゴンドウクジラ漁が行われている。SSは数年前からこの漁への反対姿勢も明確にしており、昨年は、主要メンバー数人を空路で派遣し、漁の実態を写真や動画に収めて、ネットなどを通じて告発する手段をとった。
しかし、ワトソン代表は今回、フェロー諸島へも抗議船2隻を派遣すると宣言。SSの抗議船とフェロー諸島の漁師との間に、南極海での激しい攻防にも似た状況が生まれかねない危険性が高まっている。
また、ワトソン代表は3月中旬、南太平洋の親日国パラオを訪問、同国海域を脅かしているサメの密漁対策のために、地元の海保当局とSSの抗議船が共同で取り締まりを行う合意文書に調印した。トリビオン大統領はSSに感謝の意を示し、調印式で、「われわれはシー・シェパードの協力を必要としていた」とさえ言った。
SSは、一昨年に投入したばかりの3隻目の抗議船ボブ・バーカー号をパラオに展開する用意を進めている。ただ、このSSの“パラオ作戦”の発覚後、日本政府が急遽(きゆうきよ)、使節団を派遣し、SSとの調印を破棄するよう、政権中枢への巻き返しを図っている。
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こうして、SSが拡大路線を続けている1つの背景には、事実上、抗議船の母港としている豪州の海保当局がSSへの徹底的な取り締まりを行っていない現状がある。毎年のように、豪連邦警察がSS抗議船が調査捕鯨キャンペーンを終え帰港する度に、船内の強制捜査を行っているが、クルーの逮捕や抗議船の拿捕(だほ)には至っていない。
ワトソン代表は警察の対応を槍(やり)玉に挙げ、地元メディアにこう言い放ったことがある。
「世界の大半の海域は無政府状態だ。われわれが罪に問われないのは、相手(日本の捕鯨船団)が罪に問われない理由と同じだ。問題なのは国際法の解釈が曖昧なためで、公海上で法を執行する強制力が不足している」
「豪政府のすることなんて気にしない。(強制捜査は)税金を使ったみせかけのゲームで何の結果も生まない」
4月中旬、オーストラリアのギラード首相が来日した。東京・内幸町の日本記者クラブで行われた記者会見で、昨年、国際司法裁判所へ提訴した日本の調査捕鯨停止訴訟を継続することを明言したが、一方で、「SSの船を立件に踏み切るのか」と聞いた記者の質問には、回答をはぐらかした。
一方で、2隻の船籍を許可しているオランダ政府も、日本側の再三の取り締り要請には応じていない。
日本側は今後、SSの被害にあっているデンマークやマルタなどとともに連携して、SSの膨張を阻止するための行動を強化する必要がある。
今年2月、南極海でシー・シェパード(SS)の抗議船「ゴジラ号」から日本の調査捕鯨船「日新丸」にパチンコ攻撃を仕掛ける活動家。SSとパラオの提携は、日本近海での妨害活動の本格化という新たな懸念を生んだ(AP)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110429/asi11042918010005-n1.htm