「普段通り」で支援したい。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 







【主張】広がる自粛



見慣れた「風景」がそこにあるだけで、人は気分が落ち着き、安心できる。大きな災害や不幸に見舞われたときこそ変わらないものが必要だ。

 東日本大震災を機に、列島ではさまざまな行事をやめる「自粛ムード」が広がっている。大きな電力を浪費したり、被災者の気持ちを傷つけたりするものは論外だが、そうでない限り自然体で対応したい。

 東京では浅草神社の三社(さんじゃ)祭(5月)や東京湾大華火祭(8月)などが早々と中止になった。花見の名所、上野公園や靖国神社でも、例年ならにぎわう屋台がなく閑散としている。周辺の飲食店も火が消えたようだ。

 「震災の犠牲者を悼む」「被災者を支援したい」…。こんな思いは、もちろん大切だ。「無駄な電気は使わない」という節電への協力も義務である。しかし、自粛も行き過ぎると社会や経済の活力を削(そ)ぎ、被災地の支援さえもできなくなってしまう。

 プロ野球開幕を、ナイターの電力問題で4月12日に遅らせた決定は記憶に新しい。大がかりなスポーツや芸能興行は、どれほどの電力を消費するかなどを考え、日々動きつつある情勢と合わせて判断することが求められる。

 自粛は一部の美術展やコンサートなどにも及んでいる。芸術は本来、不安な心を鎮め、生きる勇気や感動を与えるものだ。こんな時期こそ大事にしたい。

 被災地以外の大学や学校まで卒業式や入学式を取りやめたり、延期したりするのが果たして妥当だろうか。「不要不急だから」という理由で、多くの人にとって大切な思い出となる行事を奪うのは、やり過ぎだろう。

 阪神・淡路大震災を経験した建築家の安藤忠雄さんら関西の著名人らは5日、「『自粛』というより、むしろ普段の倍、がんばろうと思います」などとする緊急メッセージを出した。「こんどはわたしたちが恩返しする番」という意気がうれしい。

 東京・東中野で東北産の日本酒を扱うバーを経営する下宮(しもみや)龍児さん(58)は「震災で東北の酒蔵は大きな被害を受けた。店ではあえて明るく東北の酒を酌み交わしています」と話す。

 できるだけ普段と変わらない行動を続けることで、不安や無力感を吹き飛ばし、被災した人たちを支援していきたい。