「キッチンで、おみそ汁の残りをシンク(流し台)に流しそうになる。そんな時は『そりゃいかん、ちょっと待て』と思いとどまり、立ったままゴクゴクといただくことにしています」。水泳の元五輪選手で、引退後はタレントとして活躍していた木原光知子は、平成19年に59歳の若さで亡くなった。
▼その前年、読売新聞に「水を愛す」という題で、エッセーを寄せている。木原は、瀬戸内海環境保全審議会委員などの仕事を通じて、水そのものへの関心も強めていた。
▼とりわけ1杯のみそ汁を流すと、魚1匹が「安心して暮らせる」環境を取り戻すのに、風呂1杯の水で薄める必要があると聞いたときの衝撃は大きかった。以来、冒頭で紹介したような習慣を続けてきたという。
▼そんな木原にとって、目を覆いたくなるような事態が続いている。東京電力は、東日本大震災で被災した福島第1原発内にある、低レベルの放射性物質を含む汚染水を海に放出し始めた。数日かけて、計1万1500トンを流す。
▼高濃度の汚染水の流出を食い止めるために、やむを得ない措置だという。東電によれば、近隣の魚介類を毎日食べ続けても、健康には問題がないそうだ。ならば余計に、担当者が涙ながらに発表する姿はいただけなかった。漁業関係者の不安と、国際社会の疑念をかき立てるばかりではないか。
▼日本は、世界で確認された海の生物の約15%が生息する、豊かな海に恵まれている。東大などが昨年夏、まとめた調査の結果だ。水の浄化でも、世界トップレベルの技術を持っている。「水を愛す」ことでは、どこの国にも負けない日本の誇りを取り戻すためにも、原発事故との戦いには、絶対負けられない。