【産経抄】4月3日 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 













国文学者、桜井満氏の『節供の古典』によればサクラのサは稲の霊、クラは神の座を意味していた。つまり穀物の神が宿る木と考えられていたという。だから先週のコブシ同様、サクラの花の咲き具合でその年の稲の豊凶を占ったのが、花見の始まりだという説がある。



 ▼そうだとすれば、古代人たちが気にしていたのはその年の気候ではなかったかという気がする。夏の天気や気温が米の作柄を大きく左右するからだ。毎年の開花などに関するデータをもとに想像力を働かせ、暑いか寒いかと必死に占っていたに違いない。



 ▼そのサクラだが、先月末東京でもソメイヨシノが開花した。靖国神社の標本木で言えば昨年より6日遅いという。全国的にも、大震災に気兼ねしたような遅めの開花である。恐らく記録的豪雪をもたらしたこの冬の寒さのせいなのだろう。



 ▼早く咲いた昨年が猛暑だったから、今年は涼しい夏かもしれない。と占えば「そう単純じゃない」と古代人に笑われるだろう。ただこの夏は今から大幅な電力不足が懸念されている。クーラー使用を制限されそうな都会人とすればそうあってほしいところだ。



 ▼だがあまりの「冷夏」となっては、東北地方などの稲作にとって、大敵となる。ただでさえ、大地震で作付けの見通しさえたたない水田も多いという。ムシがいいと言われようと、双方に「ほどのよい夏」となることを祈るしかなさそうである。



 ▼もっとも花見は豊凶の占いだけではなかった。つらく長い農作業が始まる前のひとときの楽しみという意味もあったはずだ。今年の花見も過度に自粛することはない。みんなで我慢をしながら復興にあたる前、絆を確かめ合うため楽しんでもいい。