【主張】予算成立
大震災に原発事故も加わった未曽有の危機の中で、平成23年度予算が成立した。
一般会計総額は過去最大の約92・4兆円に上るが、内容は震災前のままであり、復興につながるものはほとんど含まれていない。野党は赤字国債の発行に必要な特例公債法案への反対姿勢を変えておらず、執行できるかどうかも不透明なままだ。
前例にとらわれず、国家再建のために必要な措置を果断に取らなければ危機は乗り切れない。菅直人首相は自らの言葉で国難にあたる覚悟を語り、実行に移すことで、最高指導者としての責務を果たしてもらいたい。
≪「つなぎ」に固執は疑問≫
23年度予算の成立に続き、政府は東日本大震災の被災地の復興などに必要な補正予算編成に早急に取り組まなければならない。しかも、数次にわたる補正予算が必要となる。
平成7年の阪神・淡路大震災の際には3次にわたって補正予算が編成され、その規模は計3兆円を大きく上回った。野田佳彦財務相も「阪神よりは大きくならざるを得ない」と述べており、各党間では5兆~10兆円規模が必要との考え方も示されている。
補正予算の内容とともに財源をどうするかが大きな課題だ。4月中に提出予定の23年度1次補正には、22年度と23年度の予備費など約1兆3千億円が充てられる方向だが、その他の財源をどう捻出するかは明確になっていない。
菅首相がまず表明すべきは、マニフェスト(政権公約)の見直しであり、ばらまき政策の財源を復興に回すことだ。
首相は29日の参院予算委員会で「何を優先して財源を振り向けるか、与野党で合意形成を図りたい」と述べた。マニフェストの見直しを含めて、柔軟に協議する姿勢を示唆したのだろうが、遅すぎないか。
震災発生後、与野党は事実上の政治休戦に入った。なぜこの2週間余りの間に、首相は自民党など野党と協議して結論を出さなかったのか。
その一方で、政府・与党は子ども手当の「つなぎ法案」で、現行の制度(中学生まで1人月額1万3千円)を6カ月延長しようとしている。共産、社民両党の賛成を得て、参院で否決されれば衆院再議決で成立を図る考えだ。
農家への戸別所得補償や高速無料化の社会実験などとともに、ばらまき批判の強かった政策は震災により緊急性も必然性も失っている。非常時の政策の優先順位を考えなければならない。子ども手当に固執する神経を疑う。
マニフェスト見直しに民主党の岡田克也幹事長らが言及しても、首相が号令をかけないため、現実の動きにつながらなかった。マニフェスト予算の扱いをめぐる議論が与野党間で必要なのは、今後の大規模な復興計画にもつなげる必要があるからだ。
≪呆れる官邸の原発対応≫
政府の試算では、震災による直接の被害額だけで16兆~25兆円に上る。東北を再構築する大事業であり、広大な地域を対象とし、巨額の資金を要する。復興計画を推進する体制も検討しなければならない。党派を超えた中長期的な取り組みが不可欠だ。
菅首相の原発事故への対応についても批判や疑問が広がっている。首相が国難と認識していないからではないのか。
震災発生翌日の12日、首相は「原子力について少し勉強したい」と福島第1原子力発電所の視察に向かった。これが原子炉内の圧力を下げる東京電力の作業を遅らせ、初期対応に支障を来したのではないかと、参院予算委でも厳しく批判された。
首相は原発関係のスタッフを相次いで任命しているが、東電や官僚との連携不足も指摘される。
枝野幸男官房長官が「屋内退避」の対象としていた原発から半径20~30キロ圏の住民に「自主避難」を促したのも、住民への判断丸投げにほかならない。
屋内退避の指示は、風評によって物資供給を滞らせ、住民を孤立させていた。政府の対応が住民の安全を脅かし、混乱を招くようなことがあってはならない。
原発対応の長期化が避けられない情勢だが、首相は放射性物質の外部漏出を食い止めるため米軍の協力を仰ぐなど、あらゆる方策をとるべきだ。