【主張】水の安全
東京都水道局の金町浄水場で、1歳未満の乳児の暫定飲用基準値を上回る放射性物質が水道水から検出され、東京都は乳児の水道水飲用を控えるよう求めた。
コンビニやスーパーではペットボトルの飲料水を大量に買いに走る人が押し寄せ、たちまち品切れになっている。母親が赤ちゃんのミルク用に買おうとしても買えない状態である。
原子力の専門的な知識にうとい多くの人にとって、目に見えず、においもしない放射性物質に対する不安は強い。ベクレルやシーベルトといった馴染(なじ)みの薄い単位の説明が続けばなおさらだ。
日常生活に欠かせない水道水に、基準を超える放射性物質が含まれていると聞けば当然、不安になる。取りあえずペットボトルを買いに走るような行動も一概に非難はできないが、妥当な行動かどうかは考えてみる必要がある。
検出された放射性ヨウ素は1キロ当たり210ベクレルで、乳児の基準100ベクレルよりは高いが、乳児以外の基準300ベクレルは下回っている。乳児以外にはまったく心配はない。大人が自分用にペットボトルを買い込み、乳児を抱える家庭が手に入れられないのでは、安全情報も逆効果になってしまう。
また、乳児の基準値も1年間毎日、飲んでも健康被害が出ないレベルよりさらに低く、短期間の飲用で健康リスクが高まるわけではない。放射性ヨウ素は8日で半減することも知られている。
都の発表が「代替となる飲料水がない場合には飲用しても差しつかえない」といった説明を付け加えているのもこのためだ。不安を解消するためにペットボトルの水を配布するような措置も応急的には必要だっただろう。
ただし、それは危険性について落ち着いて考えられる状態を取り戻すための措置である。
一方で福島第1原発の状態が沈静化するまでは食品や水の放射性物質の計測を続け、検出した数値とその意味合いを継続的に発表していくことも行政の使命だ。
新しい事態に遭遇して、市民の間に一定の不安や混乱が生じることは避けがたい。
現在のように社会が大きな危機に直面している時期にはむしろ、個人も、国や自治体も、こうした経験を次の行動に生かし、不必要な混乱の長期化を防ぐことが大切である。