【東日本大震災】
≪身を挺し「職務を全うした」≫
■殉職・不明警官30人
茶の間でうたた寝しているような顔だった。宮城県警岩沼署の遺体安置室。冷たい体の八島裕樹巡査(24)が横たわっていた。警察官になってわずか2年の若すぎる死。「起きろ。迎えにきたぞ」。父、良隆さん(50)が話し掛けた。傍らで母、美津子さん(52)は、ただ泣くばかりだった。震災で救出活動などに全力を挙げる警察だが、殉職者も相次いでいる。警察庁によると、22日現在で女性も含め15人が殉職。他に15人が安否不明となっている。
■「人のためになりたい」
八島巡査が勤務していた岩沼署は、仙台市の南で太平洋に面する名取、岩沼両市を管轄する。3月11日午後2時46分の激しい揺れと大津波警報。パトカーで住民に避難を呼び掛けている最中、津波の濁流にのみ込まれた。遺体は15日、仙台空港の近くで見つかった。
人のためになりたい、地域で人と接する仕事をしたいと警察官を志願した。疲れた様子で帰って来ても、両親には「ハードだけどやりがいがある。市民がほっとしてくれたり、安心したりしてくれるのがうれしい」と話していた。
岩沼署では八島巡査を含む6人の署員が行方不明になった。「住民の救助に没頭しているに違いない」と美津子さんは信じた。しかし…。
「お巡りさんに逃げろと言われ、命拾いした。しばらくして振り向くと、パトカーと一緒に波にのまれていた」。遺体発見場所近くで難を逃れた住民がいたと伝え聞いた。その警察官が八島巡査かどうかは分からない。
良隆さんは「きっと職務を全うしたのだろう。かなうなら、今2分だけでいいから生きている息子に会って、ほめてやりたい」と話す。
■地域住民と交流
「大谷駐在所史上、最高の駐在さん」。気仙沼署大谷駐在所の千田浩二巡査部長(30)の地域での評判だ。昨年11月、神社の行事で警備に就いていたとき、お清めとして海に入る住民に交じり自らも海に。地域の人たちにとって予期せぬ行動だった。
地震直後、海岸近くに人がいるのを千田巡査部長が発見、パトカーを走らせた。「海岸へ行く」。窓越しに同僚にジェスチャーで伝えたのが最後の姿になった。
同僚はパトロール中に巨大な津波が押し寄せてくるのに気付き、高台に逃げたが、目の端に千田巡査部長のパトカーがのまれ、海に流 されていくのが映った。
昨年4月、一緒に駐在所に赴任した妻(30)と長女(4)、長男(3)は無事だったが、津波で駐在所の半分がえぐり取られるように損壊した。がれきの中からヘルメット が見つかった。町内をバイクで回り、「困ったことはないですか」と話し掛けていたその声は、今は聞こえない。
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【東日本大震災の被害者数】(3月22日午後6時現在)
死者数 9080人
行方不明者数 13561人
負傷者数 2675人
※数字は警察庁まとめのため記事と合わない
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≪地震被害の救援金受け付け≫
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