【産経抄】3月12日 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






実を言うと本稿は、菅直人首相の献金疑惑を書く予定だった。ちょうどそれを書き上げたところで東京の大手町もグラッときた。弊社の入るサンケイビルは柔構造で特に揺れは大きく、思わず壁にしがみついてしまった。

 ▼だが、一息ついたところでテレビニュースを見ると、東北地方の惨状はそんな生やさしいものではなかった。大津波が巨大なゴミを巻き込みながら家を襲い、車をのみ込んでいく。津波は10メートルにも達したところもある。悪夢なら早く覚めよと祈った。

 ▼東北地方での津波と言えば、明治29(1896)年の三陸大津波である。3万人近い被害者が出たが、このときは夏祭りの準備中で逃げ遅れた人が多かったという。小泉八雲がこの話と安政年間の和歌山地方での地震を結びつけて書いたのが「生神」という作品である。

 ▼戦前は「稲むらの火」として教科書にも載った。地震が起きた直後、津波がくることを予感した村の庄屋の五兵衛が自分の田んぼの稲むらに火をつける。そのことで祭りの準備で気付いていない村人を高台にまで導いて助けたという話だ。

 ▼今回の地震は平日の午後に襲った。「稲むらの火」のように祭りの準備などに追われていたわけではないが、みんなが仕事で走り回っている最中だった。テレビで津波警報が出ても、揺れに対する恐怖などで気づかず、高いところに逃げる余裕がなかった人もいるかもしれない。

 ▼むろん被害の規模などまだわからないが、16年前の阪神大震災に匹敵するような惨害となる恐れもある。政府が国会審議をとりやめ、緊急対策本部を設置したのは当然だ。与野党ともしばらくは「政争」など休戦にして、国をあげて対策に取り組むべきだ。