「シェリーは苦手で」というひとの多くは、酵母が生成する臭いがダメみたいです。私もそうでした。そのシェリーに開眼したのは10年前に産地であるスペインのへレスを訪問して、5日間シェリー漬けの経験をしてからです。
実はヘレス訪問以前から夢中になっていたシェリーが1種類だけありました。ペドロ・ヒメネス(PX)から造られる甘口タイプです。東京の百貨店でスペインフェアが開かれたときにバイヤーの男性が「黒蜜!」と言って飲ませてくれたのがきっかけです。
名門エミリオ・ルスタウの『サン・エミリオ』で、黒蜜のような甘さとドライレーズンを連想させる香りにうっとりしました。スペイン訪問の最終日の打ち上げにも出ていました。
魅惑的な味わいに引き込まれて以来、ワイン講座でも機会を見つけては講座生に披露しています。余談ですが京都『鍵善(かぎぜん)』の葛(くず)きりが好きなので、あの黒蜜と葛のハーモニーをPXで再現できないかなと思い試してみたことがあります。
結果はいまひとつでした。シェリーの甘さの奥に隠れている繊細な酸が葛にあわせると強調されすぎてしまうのです。上品な酸味がワインのバランスの良さを形成していることを実感しました。
やはり、ペドロ・ヒメネスにはバニラアイスが一番。デザート好きには絶対お薦めの組み合わせです。甘口シェリーは栓を抜いてから1カ月くらいは平気なので、ぜひお試しいただきたいと思っています。
(ワインジャーナリスト 青木冨美子/SANKEI EXPRESS)
黒蜜のようなイメージの甘口シェリー(青木冨美子さん提供)